菊地臣一 コラム「学長からの手紙  〜医師としてのマナー〜

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11.人に優しく

「一言多く」という項目でも述べましたが、人に優しくする行動にはいろいろあります。一例を挙げましょう。医局の何かの行事をする時に幹事を指名されたとします。幹事の立場に立って考えてみましょう。以前の医局では良く締切日を過ぎても出欠の表に全く記入されていなかったことがよくありました。その時幹事の立場になって考えると、これは非常に辛いものがあります。幹事は早く出席人数を確認して予約をとらなければなりません。そして、スケジュールを立てなければなりません。もし幹事が若いと、なかなか年上の先生には催促出来ません。自分が幹事であれば非常に腹の立つ事でしょう。そういう時に、張り出されたら直ぐに皆が出欠欄の所に出欠を記入したら、どんなに仕事がスムーズで幹事がどんなに楽になることか計り知れません。こういうのが本当の優しさという事なのではないでしょうか。

他人のミスを判っていて見逃したり、腹が立ってもしたり顔で、若い時にはよく失敗をするものだという人がいますが、それをもって優しさというのであれば、それは断じて間違いです。真の優しさとは人にベタベタする事ではなくて、一瞬でも良いから他人の立場になって考えてあげる事です。

以前にも述べたように( No.4 )、仕事で汗をかきながら帰って来るだろうと他人を思いやってエアコンディショナーを強くしておく事、これも優しさです。また、私には度々医局員や学生に話す真の優しさに対する思いでがあります。それは海外留学時代の事です。トイレが何処にあるのか判りません。言葉が判らないからますます判りません。そういう時に一人のドクターが言葉が判らなくて不自由だろうと言ってトイレまで一緒に行ってくれたのです。彼は約2ヵ月間、彼が私の働いている病院を去るまで、買い物、トイレ、手術場、白衣の交換所、食堂、全て行動を共にしてくれたのです。

また、帰国して日赤医療センターに就職する際に初めて病院に行った時に、日赤医療センターの医局から玄関まで戻れない事がありました。その時に私の不安を察するかのようにある医師が、“私が玄関まで一緒に行きましょう”とさり気なく案内してくれました。この二つの時ほど私は他人の優しさを感じた事はありません。口で教えても同じです。しかし、それは本当の優しさではないのです。口で教えられて道順が判る人がどれだけいるでしょうか。複雑な建物や地形だからこそ判らないのです。そういう時には一緒に行く事こそが真の優しさなのです。こういう真の優しさを皆が少しでも持つ事によって、非常にさり気ない暖かさの満ちた職場になると思います。

 

 

 

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