菊地臣一 コラム「学長からの手紙  〜医師としてのマナー〜

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78.自分の環境や能力を嘆くよりもその環境、能力を逆手に取れ

医師として仕事をしていると、時々自分の環境の悪さ或いは能力の無さ或いは不運を嘆き他人を羨み、ついには他人を嫉妬する事も希にあります。しかし、幾ら嘆いたとて或いは恨んだとて自分に与えられた条件は変わりません。変わらないと分かっているだけに腹が立つのだと思います。しかし、ものは発想の仕方でどうにでもなります。自分に与えられた条件、即ち環境や能力をどう生かすかを考えるべきだと思います。

私は東京のど真ん中の病院から南会津の僻地病院の院長へ転勤しました。7月の赴任当日5時過ぎに、余りの病院内の寂しさや自分の置かれた環境の頼り無さに思わず涙し東京の知人友人へ電話をかけ捲った事を昨日の事の様に覚えています。でも直ぐに、幾ら嘆いても環境は変わらない、ならばこの環境を逆手に取ってプラスにしてやろうと考えました。私にとって県立田島病院というのはどの様な環境なのかをもう一度再評価しました。

そこで思い付いた事は、僻地での患者の移動は殆ど無いという事です、即ち充分な追跡調査が出来る事です。また、田舎の人特有の気質があります。最初はなかなか馴染めませんが、一旦信用してくれると、本当に心から色々と面倒を見、或いはこちらに心を開いて本当の事を打ち明けてくれます。この結果、私は県立田島病院でしか出来ない研究をし、それを論文にもしました。また、患者さんが移動しないという事を利用して疫学調査もしました。東京のど真ん中の病院では新しい手術手技の開発や疫学調査は決して出来ません。結果的に、私は与えられた環境を逆手に取ってそれをプラスに転じた訳です。

研修医の場合だったらどうでしょう。研修している訳ですから病院の規模や環境には余り問題は無いと思います。患者さんを多く持たされたとします。多く持たされたから大変だでは無くて、多くの患者さんを持てたから色々勉強になると考えれば少しは気が楽になります。色々な雑用が多くて困るという悩みに対しては自分が組織の上に立った時、或いは若いドクターを指導する時にどんな事が若いドクターには辛いのか、悲しいのかが分かります。ですから自分が上に立った時には若い人に思いやりが出来る様になります。全てそれも勉強な訳です。どうぞ自分の環境や能力を呪うよりも悪い条件ならそれを逆手に取って、自分の与えられた環境や能力が良い条件ならそれを利用して頑張って下さい。

 

 

 

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