福島県立医科大学解剖慰霊祭
その尊い御遺体を捧げた故人の徳を偲び、御霊の冥福を祈るため、遺族、来賓を招き、教職員、学生の出席のもとに、毎年秋に解剖慰霊祭を執り行っています。
第75回福島県立医科大学解剖慰霊祭 学長式辞 (令和6年10月30日)
第75回福島県立医科大学解剖慰霊祭を挙行するにあたり、御遺族の皆様、御来賓の各位とともに、教職員、学生一同、謹んで御霊前に哀悼の意を表し、御霊の安らかならんことをお祈り申し上げます。
本日、お供えをいたしました御霊は296柱であります。これまで合わせて18,556柱をお慰めしてまいりました。自らの尊い御意志と御遺族の方々の深い御理解、御協力のもと、医師をはじめとする医に携わる専門職を目指す者の教育と研究の発展のために御遺体を供してくださいました、その崇高な御心に対し、ここに深甚なる敬意と感謝の念を捧げます。
昨今ではあらゆる分野においてIT技術が導入され、デジタル化が進んでおります。医療の分野においてもそれは例外ではなく、例えば手術の術前シミュレーターとして3Dプリンター等で作られた臓器モデルを利用することも次第に増えてまいりました。その精巧さは目を見張るものがあり、臓器の構造を学ぶための教材としても全く問題のないものです。しかし、どれほど精巧な臓器モデルが開発されようとも、医の道を志す学生たちが、御遺体とともに行う学びの場がなくなることはありません。なぜなら、御遺体とともにでなければ得られない学びがそこにあるからです。
学生は、御遺体の前に立ち、自らの感覚を鋭敏に研ぎ澄まして向き合います。その時、誰もが生命の尊厳を感じずにはいられません。真摯な気持ちで御遺体と触れ合う学生たちは、単に身体の仕組みや構造を学ばせていただくだけでなく、必然的に御遺体の生前のお想いを推しはかり、医を志す者としての使命とは何かを深く考え抜くことになります。それはまさに沈黙のうちに行われる学生と御遺体との間のコミュニケーションであります。
学生は御遺体の“言葉にならざるお言葉”の御指導をいただき、御献体という崇高な行為と想いに触れることで自らの使命を自問自答し、医療人としての覚悟をより強く固めていくのです。
そして、その思考は医療を必要とする方々への思いやりや、洞察力を養う力へとつながっていきます。御遺体とともに行われる学生たちの学びの場は、医療に携わる全ての者の根底に流れる共通の意識、すなわち生命に対する畏怖の念と人に対する慈しみを育む、欠くことのできない場なのです。
御遺体を解剖に供してくださいました皆様は、未来の医療を担う本学の学生たちが、病の砦となり、社会の安心と安定の礎となること、そして、新たな学びと研究の成果を広く社会に届け、より高度な医療の発展に資する人材となることを願った方ばかりであります。私たちは、その願いと期待に最大限沿えるよう、必ずや学生たちを一人前の医療人に育ててまいります。
そして、病に苦しむ人々の希望となり、人々の生命の輝きを守る医療人、病の克服に挑戦する努力を惜しまず、少しでも医の高みに達すべく前進しようとする医療人として社会に送り出すことを御霊と御遺族の方々にお誓い申し上げます。
最後に、皆様の御高徳を偲びつつ、その御霊が安らかならんことをお祈りして、式辞といたします。
令和6年10月30日
福島県立医科大学 学長
竹之下 誠一
事務局:教育研修支援課
学生総務係
電話:024-547-1972
FAX:024-547−1984
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