菊地臣一 コラム「学長からの手紙  〜医師としてのマナー〜

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17.医師だけが許される事というのはない

病院は医師がいないと動きません。しかし、医師だけでは動きません。これは、厳然たる事実で、絶えずDr.は自覚していなければならない事です。

例を挙げましょう。医師が真夜中まで懸命な医療行為で疲れ、次の日の朝10時位に出てくるとします。或いは何等かの理由で身体的、精神的に危機的な状態にあったとします。その時に次の朝の出勤時間が10時ないし11時に出てきたとします。医局員はそれを知っております。ですからむしろ同情、或いは共感の目をもってその様な事態を迎えます。しかし、もし患者さんやその事情を知らない職員が見た場合にはどう感じるでしょうか。医者だからゆっくり来ても咎められない、いい気なものだと見るでしょう。だからこそ医師は堕落しているのだとも見るかもしれません。

しかし考えてもみようではありませんか。もし自分が逆の立場だったらどうでしょう。他人のする行動をいちいちそこまで深い考慮をして、その背景にあるものを探ってその上で他人を評価しているでしょうか。していません。取るに足りない行動でも、その事だけでその人を判断しています。残念ながら現実はそのようです。確かに他人の一つ一つの行動に対してそこまで考えて判断していたら世の中の動きにはついていけません。こういう誤解を招かない為には相手は全く自分の事情を斟酌してくれないという前提で行動する必要があります。

医療は医師がいなければ動きません。しかし医師だけでは動きません。だからこそ医師はどんな事があっても他人の前では完璧に振る舞う事が要求されます。最低限服務規程は守り、自分の事情を判ってくれる人の前でだけ裃を脱げるのです。その事に常に医師は留意しなければなりません。即ち白衣を着ている間は演技をする必要があるわけです。良い意味で他人を信用してはいけません。

 

 

 

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