菊地臣一 コラム「学長からの手紙  〜医師としてのマナー〜

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21.勉学に王道なし

医局に入局した後、自分を磨く方法はさまざまです。熟練した上の先生が幾人もいるところに研修に行くことが一番素晴らしい研修である、と思っている人が多いと思います。しかしそれは嘘です。タイトルにあるように勉学に王道はありません。要はその人間が自分の修業をどのように捉らえるかという一点に尽きます。

私自身の場合を述べてみます。私は半年の学内研修を終え、学外研修に出されました。その時、私の赴任した病院にはObenはおりませんでした。Obenの先生は一週間交替です。この結果どのようなことが起きたかといいますと、前の先生は「この症例は手術をしなさい」と言って帰って行きます。次の週に手術を予定していると、次に来た先生が、「何故このような症例を手術するのだ、手術の必要はない」という有様です。

私は誰も信用することが出来なくなり、患者の不信は募ります。そこで私は自分で勉強するしかないと心に決め、約半年でDePalmaの有名な骨折の成書を読破しました。結果的には、患者さんも何時でもいる私を信用してくれ、私自身も自分がしっかりしなければ駄目だという意識になって自分自身を磨く事が出来ました。その時の勉強が今生きているのをはっきりと感じます。もし私が熟練した先生方が何人かいる病院に学外研修に出れたら、このような自分の磨き方は出来なかったでしょう。しかし、その時はとてもそうは思えず、ただ医局の人事を恨みました。ですから何処に行くかは自分自身の研修にはあまり関係なく、どのように勉強するかだと思います。

もう一つの他人の例を挙げましょう。現在私は、週に一度以前院長をしていた県立田島病院へ出張し手術をしています。そこで外で一人で頑張っている研修医を呼んで手術をさせております。そこは私と研修医との真剣勝負の場です。私は、手抜き・甘えは許しません。しかし、その結果彼は見違えるように成長しました。もし彼が一人で学外研修の病院に行っていなければこのような機会は与えられなかったでしょうし、彼が一人でやる研修の不安から何でも学んでやろうというひたむきな心が彼の成長を促したこともまた疑いのないところです。

このように自分を磨く方法にはbest wayというのはありません。ゴルフで例えればpar fiveは fair wayでもpar fiveです。しかし、隣のfair wayを経由してpar fiveでもそれは全く同じ価値なのです。ですから、研修を何処の病院でやるかに一喜一憂せず、与えられた環境で、そこでしか出来ない勉学をすればそれで研修の目的は達せられる訳です。勉学に王道はありません。研修病院について愚痴や不平不満を言うのは勝手ですが、それを自分が成長しない言い訳には決してしてはならない事は心に留めておくべきです。

 

 

 

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