菊地臣一 コラム「学長からの手紙  〜医師としてのマナー〜

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42.自分の能力を適確に評価出来ているかどうかがプロとしての条件

世の中にプロフェッショナルな職業というのは、三つあります。宣教師、弁護士、医師です。その三つは何故プロフェッショナルと言われて尊敬されているのかというと、その内部にBlack Boxを持っている事です。すなわち、他人には伺い知れない思考過程、或いは他人の秘密を持ち知り得る点です。

では、プロフェッショナルの条件とは何かというと、自分を第三者的に評価出来るかどうかが先ず第一歩です。すなわち、もう一人の自分が自分を見つめて、自分が日本の或いは世界のその職業、或いはその分野での座標軸がどこにあるかをきっちり見分ける事が出来るかどうかが、プロとして及第点が取れるかどうかの分かれ目です。ですから、医師は常に医師として、或いは専門領域の専門家として自分の座標軸がどこにあるかを常に意識すべきです。そうする事によって、自ずと自らを律する事が出来る様になると思います。

具体的な例を話しましょう。手術の予定表を出そうとします。その手術は、手術の所要時間或いは出血量は、術者によって異なります。術者が自分が出した時間の通りに終わるかどうか、自分が予定した出血量の範囲内で終われるかどうかがポイントです。出来ない人間はプロとして失格です。何故ならば遅くても良いのです。遅いという事を知っているから良いのです。自分が2時間という予定手術で5時間もやっている人間は失格です。しかし5時間と出して5時間で終わっている人間はプロとして合格です。

もう一つ例を挙げましょう。先日、私が厳しく医局員を叱った事がありました。それは、病棟での主治医交替の件です。ある朝、7時半のPresentationの時間に病棟医が多数時間に間に合いませんでした。何か緊急事態でも発生したのかと思って問い質すと、何の事はない、主治医交替の為にデータ整理や患者さんの把握が時間までに間に合わなかっただけなのです。これはいかにプロとして駄目かを示している代表的な例です。

自分が患者さんの掌握にどの位時間が掛かるかを評価出来ていなかった結果起きた事態です。自分が患者さんの受け持ちが交替になった場合に、患者把握にある医師は30分、或いは1時間、人によっては10分と医師により異なる筈です。それを自分で評価出来るかどうかが、最も大事なプロとしての条件です。もう一度言います。プロとは、自分の能力を冷静、適確に評価出来る事なのです。それが出来て、初めてプロと言えます。お互い頑張りましょう。

 

 

 

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