菊地臣一 コラム「学長からの手紙  〜医師としてのマナー〜

<< 前のページ  目次  次のページ >>

59.時間を厳守せよ

プロフェッショナルとしての医師は周囲からの信頼を得る為に、第一に守らなければならない事は、時間です。以前にも書きましたがこれが幾つかあるどうしても守らなくてはならない原則の内の一番大事なものです。具体例を話してみましょう。

医師は、診療や研究で夜中午前2時・3時に帰宅する事も希ではありません。だからと言って次の日に遅れて来ても良いという事にはなりません。もし、救急や手術などで午前2時・3時まで仕事をして次の日の朝9時或いは10時に出てきたとします。医局の人間は彼が昨夜殆ど寝ずに頑張っている事を知っているのでそれを暖かく迎えてくれるでしょう。しかし、他科の医師・看護婦さん或いは事務の方は、彼が昨夜遅くまで頑張っていたという事は知りません。そういう知らない状態で、その人間が朝遅刻してきたという事実だけで、「あいつはだらしがない」、或いは「これだからドクターはいい気なものだ」などと批判します。批判する方も深い意味があって批判するわけではないのですが、それが度重なると結果的にはその個人のみではなく、医師という職種自体に対する批判になってきてしまうのです。

こんな理不尽な事はないと、医師達は思うでしょう。しかし考えてもみて下さい。果たして他人を評価する時にその人間の背景まで立ち入って考慮し、それから判断を下しているでしょうか。やはりその人間の何気ない一つの事実、例えば遅刻をする、或いは服装がだらしがない、そういった取るに足らない一つの事でその人間の全体を評価しています。残念ながらそれは私も含めて現実です。ですから医師は最も基本的な守らなければならない事、すなわち時間に関してはどんなに夜遅くとも、どんな事情があっても始業時間8時半までには這ってでも病院に入るべきなのです。そして病院の中で寝ている分には医局員は誰も彼を責めはしません、温かく見守るでしょう。また、周囲の人達も彼が時間までに来ていれば褒めもしない代わり、責める事もないでしょう。

以上述べたように、人間は他人の背景まで立ち入ってその人間の評価はしないという事実に基ずいて、プロフェッショナルたる医師は事情の如何を問わず遅刻はいけないのです。御互い気を付けましょう。

 

 

 

▲TOPへ