菊地臣一 コラム「学長からの手紙  〜医師としてのマナー〜

<< 前のページ  目次  次のページ >>

69.自分の価値基準を自分の都合で変えるな

「自分の価値基準をしっかり持て」とはよく言います。しかし、なかなか言うは易く行いは難しです。なぜなら、以前にも書いた様に所詮人間は曖昧な価値基準の上に立っている訳です。しかし、その曖昧な価値基準に立っているという自覚をもって行動する人間は良いのですが、そうでない人間、また残念ながらそれが大部分ですが、その様な人は自分の都合に合わせて自分の主張する根拠になっている価値基準を変えます。

例えば、最も身近な例では大学紛争時の対応です。あの当時医局体制打破、教授ボイコット、自主的研修、と称して激しい闘争をしました。でも、今日その事を主張した人間がその医局に対して人の派遣を求めたり、医局の応援を当てにしたり、何か困った時には医局に連絡をして、医局で対応してくれという事を言います。「これは、おかしい」とは思いませんか。自分の都合の良い時にはその医局を批判し、自分の都合の悪い時には医局を当てにする、これは完全なる価値基準のダブルスタンダードです。

もう一つ例を挙げましょう。「私は組織に縛られう事が嫌いだ」と言う人間がよく居ます。しかし、そういう人間に限ってちゃっかりと組織を利用する事には人後に落ちません。しかし、その組織を維持する、或いはその組織の力を伸ばす為に自分は汗を掻きたくない、というのが一般的です。自分の所属している組織の盛衰は結果的には自分の将来にも掛かって来る訳です。でも、医局の中には医局の為には汗を流すのは嫌だけれども、その医局の力や影響力で自分が良いポジションを得たり自分が良い待遇を受けたりするのは、それは喜んで受けるという人間が少なくありません。これも、自分の価値基準を自分の都合で変化させている一つの例です。

ですから、自由人として生きるのであれば徹頭徹尾、組織を利用すべきではありません。組織の中に居て、恩恵や利益を得ている以上は組織の為にも力を尽くす事が要求されます。私は組織の中に入りなさい或いは組織の中にいる以上は組織に忠誠を尽くしなさいと言っているのではありません。自分の価値基準をきちんと決めて組織に対する義務を負わなければ組織を使っての権利を主張するな、という事を強調しているのです。誤解をしないで下さい。

 

 

 

▲TOPへ