菊地臣一 コラム「学長からの手紙 〜医師としてのマナー〜」
73.常に子供のように疑問を持て
私の医局員に対する指導、あるいはスタッフに対する研究上のアイディアの提供は、全て臨床上の疑問から発しています。臨床上何気なく、当たり前だと思っていること、あるいは何の疑問を持たずにやっていることが意外とその根拠がなかったり、何とはなしに間違ったことをしていたり、あるいは全く効果の無いことを効果があると信じてその治療法を患者に指示したりしています。こう言ったことに疑問を持って研究を続けて来たのが私の研究生活でした。それ故に「腰痛を巡る常識の嘘」と言う講演をしたり、その本を刊行するまでになりました。
翻って医局の現状を見てみましょう。日常業務の中で抗生物質を投与する、あるいは発熱の原因を探る、そういった時に論理的にやっているでしょうか。先輩からただ言われたまま、あるいは耳学問に覚えたままに指示を出していないでしょうか。例えば抗生剤を投与している理由、またある抗生剤でなくその抗生剤を使用している根拠を時々医局員に問い正すと全く何もないのです。予防的投与であれば、普段のメーカーとの付き合い、あるいはその営業マンとの人間的交流を大いに参考にすべきです。それでこそ人間関係が旨く行く訳です。
しかし、何らかの必然的理由があって、どうしても抗生物質を使う時にはそれなりの根拠がいります。この抗生剤はグラムポジティブなあるいはネガティブに対して投与しているのか、あるいは肝排泄性の抗生剤を望んで使っているのか、腎排泄性の抗生剤を狙って使っているのか、少なくともそういうことを考慮して投与すべきではないでしょうか。ですから、そういう考え方の基礎は何故そういうことをしているのか、自分の行動の一つ一つを丹念に「何故、何故」と問い詰めていくことです。そうすることによって自分の診療がその時点での論理性を帯びて、自分も他人も納得させ、皆が理解出来る治療法が成立する訳です。
また、そういうことの訓練が研究生活に大きく生かされます。心してもう一度原点に戻り「何故、何故」ということを自分自身の心に問い掛けてみて下さい。因みに私は研修医時代、ある先輩に「おまえは何故、何故と聞きすぎる、うるさい」と言われたことがあります。先輩にうるさがられるくらい聞いてみて下さい。