菊地臣一 コラム「学長からの手紙  〜医師としてのマナー〜

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98.人間は自分が思い至らない様な事や物にしか感動しない

我々は私生活上、或いは診療業務や研究上、どんな時に感動するのでしょうか。科学的な言い方をすると、常識内或いは予測可能な範囲の出来事や行動には感動しないのではないでしょうか。自分が自分の予測を越えた行為や行動に出会った時に初めて、自分の魂を揺すぶられる様な事が起きるのではないでしょうか。

この対極にあるのは、ある局面から逃げる事です。医局員や医局職員にも、明らかにある局面から目を反らしたり逃げている人がいます。自分は逃げている事が分かっているのか、分かっていないかは分かりませんが、他人の目は誤魔化せません。そこが Professionalな世界の怖い所です。また、我々の様な診療や研究に携わっている人間は、逃げようと思えば幾らでも自分の身を楽な場所、辛い局面に立たされないように逃げる事が可能であるという事がもう一つの問題点です。でもそうしていると、プロという誇りがあればある程、自分自身の評価は自分が一番分かりますから、逃げている自分に腹を立て、ついには策を弄して誇りを保つ為に要らぬ小細工をするようになります。

自分が他人に感動を与えられるような人間になるのには、血の滲むような努力、或いは極限までの妥協の無い努力が必要でしょう。プロの世界であるだけに、同じプロの人間に感動を与えるのはなかなか大変な事です。でも、何時かそういう局面を克服しないと真のプロにはなれません。人に感動を覚えさせるようなProfessionalな人間になるのには、ある一定期間、その人間が狂った様に頑張らないとその域には届きません。これは医学や医療に限らずどんな領域のProfessionalにも共通した事実です。医局員や医局職員は是非他人に自分の行為や行動が他人に感動を与えるような人間になってくれることを期待してます。

 

 

 

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