「学長からの手紙」番外編 〜 新聞・雑誌への寄稿文から 〜
2015年9月25日発行 月刊誌「臨床整形外科」 第50巻第9号
「臨床整形外科」(臨整外)は、医療系学術専門誌出版社「医学書院」より発行している、整形外科領域の第一線の臨床的知識を紹介する月刊誌です。医学界および関係領域で活躍するエキスパートを編集委員等に迎え、学術専門誌としてのクオリティと正確さを堅持しています。
菊地臣一本学理事長兼学長は編集委員として発行に携わっています。
● 医学書院
http://www.igaku-shoin.co.jp
(「臨床整形外科」 紹介ページ) http://www.igaku-shoin.co.jp/mag/rinseige
● あとがき
台風一過の7月下旬、この原稿を認(したた)めています。
天からの労(ねぎら)いか、下関への日帰りの旅で、関門海峡からの潮の香りと潮の流れに乗った風を味わうことができました。
夕陽の季節です。
ホームで列車を待っていると、復元された東京駅の丸屋根を影絵にして、真赤な夕焼けが天空を染めています。
ここ信夫の里でも、県庁裏の阿武隈川の左岸(通称:隈畔(わいはん))の夕陽が、抒情を湛(たた)えて、川面(かわも)を照らしています。
浅瀬に立ったさざ波が夕陽に縁取られて、黒く輝いています。そこで釣り糸を垂れている人の影は、仙人のようです。
社会保障費削減のために、医療政策が、次々と打ち出されています。
関係者はその対応に頭を悩ませています。そんな苦境のなかでも、多くの整形外科医が、個人として、あるいは組織として、果敢に立ち向かっています。そこに、整形外科の未来を見い出すことができます。
今月の誌上シンポジウムの主題は、筋肉です。
整形外科の歴史は、よくも悪くも、形態学から始まっています。単純X線撮影の実用化により、診断から治療まで、画像の影響を大きく受けて現在に至っています。
近年の科学の進歩は、身体の機能、不健康(具合が悪い)という、目にみえない「症状」にも注目することの大切さをわれわれに教えてくれています。
現在の整形外科は、形態のみならず、機能という病態にも真正面から取り組むことが求められています。
整形外科医にとって対応を求められることが最も多い痛みでも、劇的な進歩があり、それは今も続いています。警告信号としての意味だけでなく、慢性の痛みは今や、寿命を含む人間の健康に大きく影響している事が明らかになりました。それとともに、動くことの重要性が認識されつつあります。
そのような状況の下、CTやMRIの出現により、筋肉を含む軟部組織が、目で捉(とら)えられるようになりました。今や、筋肉の機能までもが把握できます。
10年以上前、「これからは筋肉の時代」、と言った先人の予言が、今、ここに実現しつつあります。
筋肉の機能は、運動器を動かすだけではありません。
寿命はもちろん、癌、認知症などを含む人間の存在や健康に深く関わっているのです。それに責任をもって診療できるのは整形外科医です。
われわれ、整形外科医が“運動器のプロ”を自認し続けるのなら、筋肉の勉強は避けて通れません。本号は運動器のプロにとっては最高の教科書です。
( ※ Webページ向けに読点や改行位置を編集し、転載しております)