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大学院医学研究科入学式 学長式辞 (令和2年10月1日)

2020年 大学院医学研究科入学式の様子1 2020年 大学院医学研究科入学式の様子2 2020年 大学院医学研究科入学式の様子3

本日ここに、令和2年度後期福島県立医科大学大学院入学式を挙行できますことは、本学にとってこの上ない慶びであります。
 ただいま入学を許可された大学院医学研究科14名の皆さん、ご入学誠におめでとうございます。今日から仲間となる皆さんが互いに切磋琢磨し、将来、共にその志が成就されるよう、教職員一同、しっかりサポートしていきたいと思います。

祝辞をのべるにあたり、新入生の皆さんに毎年必ずお伝えしていることがあります。それは、本学が担う使命と、福島で医療を学ぶことの意味についてです。本学医学部から進学された方には繰り返しになりますが、大切なことなので改めてお話しいたします。
 2011年3月11日、福島は未曾有の災害と原発事故に見舞われました。本学は、震災後いち早く、自らの新たな使命として「健康と医療の面から福島の復興を支える」ことを宣言。教職員が一丸となり、総力を挙げてこの使命の完遂に当たってきました。その取組みは見倣うことの出来る前例などなく、試行錯誤の連続です。時に厳しい批判を受けることもありますが、その都度、私たちは悩み、自問自答し、県民の皆さんに対し、世界に対し、そして未来に対し、最適な取組みを示すべく考え、行動しようと努めてきました。
 本学は、他の大学とは違い、不安を抱える県民を支え、この災害と惨禍に対して最前線に立ち続けることを宿命づけられた大学です。あの惨禍から10年が経とうとする今、皆さんにとっては「よく知らない過去のこと」という意識が強いかもしれません。しかし、この大学で医学を学ぶ者が、震災、原発事故、その被災者の方々の悲しみ、苦しみ、悔しさに対し、無関心でいることは絶対に許されません。自分自身の中に、この惨禍との接点や課題を見出し、真摯に考え、行動することが求められます。福島に刻まれた歴史に対し、私は知らない、関係ない、という姿勢は許されないこと、福島の復興の在り方に常に問題意識を持ち続けることを肝に銘じ、本学での学びをスタートさせてください。

さて、いま世界は、ご存知の通り新型コロナウイルス感染症への対応に全力を挙げています。社会活動、経済活動、文化活動と、日常生活のあらゆることがこれほど停滞したのは、日本にとっても戦後初めてのことではないでしょうか。先人たちが築き上げ、これまで当たり前、常識と思っていたことが、その拠り所となる基盤から変化し、「ニューノーマル」という新しい生活様式への模索が始まりました。しかもこのコロナ禍をきっかけとした変化は、不可逆的、恒常的なものと思われます。大都市などの一極集中から地方への分散や、在宅勤務の可能性、IoTの進化、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進なども、その数ある変化の一つといえます。
 このような状況を前に「私には関係ない」と思う人がいれば、すぐに意識を変えなければなりません。皆さんが学び、専門家となる医療は、誰のためにあるのか、何のためにあるのか、という本質を考えてください。あらゆる人々の幸福な生活を支えるために医療は存在します。医療の質が向上し、広くその医療を提供することは、社会の安定に貢献する行為です。ところが、その社会そのものが、いま変化しようとしているのですから、私たちがそのことに無関心でいるわけにはいかないのです。
 例えば、地方分散社会が進めば、現在の医療体制では、あまねく医療を届けることが難しくなるでしょう。AIやIoTの進化は、診断、治療の形を変えるだけなく、患者さんとのコミュニケーションの形も変わって来るでしょう。「ニューノーマル」は、これからの医療の在り方を根本から大きく変えることになります。私たちは、またもや前例がない事態に直面することになりました。
 では、このような変化に対し、私たちはどのように向き合っていけばよいのでしょうか。医療人、つまり科学者となる皆さんにとって、変化への対応法は、ひとつです。なぜならそれは、医学を学ぶために求められる姿勢と全く同じだからです。それは、変化の本質を解明し、新たな仕組みを構築し、進化に変えていくことです。そのためには、多様なチャレンジと深い思考が求められます。変化に対し一つのチャレンジだけで、その本質が見えることはありません。科学を学ぶ姿勢も同じです。さまざまな角度から切り口を変えて変化に迫り、熟考することで、次第に変化の中にある本質的な何かが削り出されて、科学の進化をもたらすのです。

そこで今年1月、本学は「変化を進化に」というメッセージを発しました。そこには、私たちひとり一人が、チャレンジを重ね、徹底的に考えることで、変化の波を何らかのプラスに変えていくよう、奮起を促す気持ちを込めました。コロナ禍によって、社会が勝手に変わってしまった、と傍観するのではなく、この変化をどうプラスに変えるかという視点を持って欲しいということです。
 医学という一つの専門領域だけでもその変化は日進月歩であり、劇的です。皆さんは、まず基礎を学び、さらにその変化についていくだけで、最初は体力も知力も使い果たすでしょう。しかし、社会の変化にリンクしていない専門性は、いくら追求しても、結局は小さく閉ざされた自己満足でしかありません。自らの専門性の追求が、科学の進化、社会の進化にも貢献するよう、広く社会全体の変化も合わせて俯瞰する力も養ってください。
 そして、このチャレンジと思考の繰り返しには、必ず「失敗」が伴います。失敗のないチャレンジや思考はありません。皆さんは、これからの長い学びの過程で、絶望的になるほどの失敗を繰り返すはずです。しかし、失敗を漫然と繰り返し、失敗に慣れてしまっては、変化の本質を削り出し、進化に変える力にはなりません。大切なことは失敗に対し「反省」ができるかどうかです。反省をするためにもまた、広く自分や社会を俯瞰した視点と謙虚な姿勢が必要です。今、皆さんが心に持っている志を成就するために、決して答えを求めることを急いではなりません。同じ失敗を二度繰り返すことがなくなれば、おのずと志は成就されるのです。
 皆さんの周囲を見回してください。このハードな道のりを踏破するための最大かつ最高のパートナーは同期の仲間です。互いに切磋琢磨し、高め合いながら一歩ずつ前に進んでください。
 皆さんの健闘を祈ります。

令和2年 10月 1日
福島県立医科大学 学長
竹之下 誠一

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