

令和3年度学位記授与式(卒業式) 学長式辞 (令和4年3月24日)



本日ここに学位を授与された、大学院修了生48名、学部卒業生212名の諸君に、福島県立医科大学の教職員を代表して、心からお祝いを申し上げます。併せて、本日の学位記授与式を迎えるまで、ご家族、および関係者の皆様よりいただいた数多くのご支援に対し、厚く御礼を申し上げます。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まり2年以上が経過しました。大学においても対面講義や実習が制限されるなど多くの不自由が生じる中、困難な状況にもかかわらず、多くの試練を乗り越え、この日を迎えることができた諸君の努力に最大限の敬意を表します。
今日を境に諸君は、医療のプロフェッショナルとして扱われます。これまでの努力を認められ、プロとして通用すると判断された結果ですから、自信を持ってこの世界に入って来てください。しかし、それと同時に負うものもあります。その一つが学び続けるという責務です。医療の知識も技術もその進化は日進月歩です。その変化を吸収し、行動に繋げるため、諸君の先輩たち、そして壇上にいる私たち自身も例外なく医療人は、常に知識をアップデートし、腕を磨いています。これから諸君は、同級生の中で学ぶのではなく、全世界の全ての世代の医療者と切磋琢磨する場に仲間入りするのです。変化の時代は、学ぶ者だけが生き抜いていける時代と言っても過言ではありません。裏返せば、学ぶことをやめれば、プロフェッショナルとしての居場所を失います。それだけ重い責務を負うのだ、ということを、今日、心に刻んでください。
さらにもう一つ、プロフェッショナルとして求められるものがあります。それは、職種の違いはあれども医療者に共通する課題、コミュニケーション能力を磨くことです。そう聞けば、分かり切ったことを、と諸君は思うかもしれません。しかし、だからこそ、その重要性を敢えてこの場で指摘しておきたいと思います。コロナの影響でオンラインによる会議や講義が増えるにつれ、思っていた以上のことがオンラインで出来ることに私たちは気づきました。また、コロナの状況に関係なく、デジタル機器の発達でコミュニケーションはより手軽になっているのも事実です。そのことによるメリットは非常に大きいでしょう。
しかし、医療の現場で行うコミュニケーションは単に用件を伝え、伝えられれば済むものではありません。医師であれ、看護師であれ、保健師であれ、医療に携わる者が向き合うのは、健康に不安を感じ、病気に悩まされている人々です。しかもたいていは初対面であり、その為人や性格、生い立ちを知っているわけでもありません。患者さんの側から見れば、診察の場は、不安を抱えて初めて会う医療者に、身体や心などプライベートなことを話す場であり、高い緊張を強いられています。ですから、なかなか言葉が出てこない、言葉にしづらいのがむしろ普通なのです。私たち医療者は、向き合う相手のこの「言葉にならざる言葉」をいかに汲み取り、理解するかが求められます。言い換えれば五感をフルに使ってコミュニケーションをする能力こそが求められているのです。そのために必要なのは直接の対話です。世間には効率的で手軽なコミュニケーションが溢れ、しかもコロナ禍の影響もあり、従来当たり前であった直接対面して対話する機会がますます少なくなっています。しかし、数多くの対話を重ね、感性を磨き、語彙を増やすほかに、五感で行うコミュニケーション力は養えません。諸君は日々、対話を通して相手の視線やしぐさ、言葉使いの意味を考え、感じながら、自分と異なる価値観や感情をすり合わせ理解するという、相当に知的なプロセスを身に付けなければならないのです。
不安を抱えた相手と正対し、相手を思いやり、言葉にならざる言葉を汲み取りながら交わされるコミュニケーションそのものが、医療の質の一端を担うことは忘れられがちです。ぜひ、この機会にそのことをしっかり意識してください。
コミュニケーションと言えば、大リーグの二刀流大谷翔平選手や、最近では先日開催された北京オリンピックでの女子カーリングチームのコミュニケーション力が話題になりました。彼女たちの試合の様子を見ていて改めて気づかされたことがあります。それは、笑顔や落胆、励ましや奮起を促すやり取りが、チームを超えて、それをテレビで見ている私たちにも伝染するということです。新型コロナの感染拡大に悩まされている私たちですが、一方で夢や希望を拡散することも私たちには出来るのです。
諸君もさらなる研鑽を積み、周囲が瞠目する高いレベルの技量を備え、加えて高いコミュニケーション能力を養うことで、医療の質の向上の一翼を担ってください。なぜなら、質の高い医療の提供は、社会に安心と安定を広げることに繋がるからです。目の前の患者さんを治療するだけではない、「より良い未来の構築」という、医療が社会に及ぼす力を最大限に発揮できる医療人として、諸君の将来が輝かしいものとなることを祈念し、はなむけの言葉といたします。
令和4年3月24日
福島県立医科大学 学長
竹之下 誠一
事務担当 : 教育研修支援課
医学部(大学院医学研究科)教務係
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看護学部(大学院看護学研究科)教務係
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