大学院学位記授与式 学長式辞 (令和6年9月30日)
本日ここに学位を授与された、医学研究科 博士課程 14名、看護学研究科 修士課程 2名の 計 16名の皆さん、福島県立医科大学のすべての教職員を代表して、心からお祝いを申し上げます。あわせて、本日の学位記授与式を迎えるまで、ご家族および関係者の皆様よりいただいた数々の多大なご支援に対しても、厚く御礼申し上げます。
みなさんは多くの困難を地道な努力で克服し、高度な専門性を身につけたことを認められ、この日を迎えることが出来ました。どのような専門知識や専門技術であっても、それを身につけることは大変であることは想像に難くなく、時には仲間と助け合って課題、難題をクリアしてきたこともあったことと思います。そして、これからも、いや、これからのほうが学生時代に作り上げた仲間の大切さ、ありがたさをより実感することになるだろうと思います。今日ここに集った皆さんがこれからも互いに助け合いながら、研究者や医師、看護師、保健師といった専門職として素晴らしいキャリアを積んでいくことを願っています。
さて、今日を境に皆さんが飛び込んでいく社会は、学校とは全く違った世界です。学校というのは、志も価値観も比較的同等均質で、年齢層も近いメンバーの集まりです。加えて本学は文系や工学系などの学部を有する総合大学とは違い、医療分野以外で学ぶ学生や研究者と接する機会がどうしても少なくならざるを得ません。その結果、皆さんは、多様性に富んだ環境で学生生活を過ごしてきたとは言い難いのです。片や、社会には多様なバックグランドや考え方、幅広い年齢層の人々が集まっており、彼らとのコミュニケーションなしには、身につけた専門性を社会で生かすことさえ、ままなりません。専門家だから、専門家同士でコミュニケーションしていれば良い、というわけにはいかないのです。その現実に接し、これまでとのギャップに戸惑う人もいるかもしれません。頭では「多様性」ということが分かっているつもりでも、現実に直面すると対応に困ってしまう人も多いかと思います。そこで、これまでも私は機会を見つけては、学生の皆さんに「しなやか」であることの大切さを伝えてきました。今一度そのことを思い出してください。
しなやかな態度、思考とは、自分が拠って立つ軸をしっかりと持ち続けながらも、相手の意見や考えを、その相手の立場になって聞き、その思いを汲み取ったり、あるいは置かれた状況に応じて臨機応変に対応を変えたり、といった、多面的なものの見方や行動力を持つことです。それはそのまま自身の視野を広げ、取るべき行動の選択肢を増やすといった効果を伴います。皆さんは、先にも触れたように、多様な価値観に触れることが相対的に少ない学生時代を過ごしてきただけに、より積極的にこのしなやかな思考や態度を身につけ、人間としての幅を広げることを意識して欲しいと思います。
しかし、幅広く情報を取っていると、あまりに多種多様な情報が一気に押し寄せてきて、理解に困ったり、判断に迷ったり、さらには判断を誤ったり、ということも起きます。そこで、冷静に情報に接する上でひとつ、必要な視点があります。それは自分の接している情報は「事実」なのか「意見」なのかをしっかり見極めることです。往々にして多くの情報が、意見であるにも関わらず、事実のような顔をして私たちの前に現れます。気になる情報に触れたとき、それは客観的な事実なのか、ある特定の側に立つ人の意見なのかを、出典や背景などを探って確認するというプロセスを踏むことを忘れてはなりません。皆さんはこれまで、科学者として必ずデータの出典を明確にして研究し、学んできました。ですから、その重要性はしっかり理解していることと思います。その姿勢を日常生活にも応用して欲しいのです。
そしてこの見極めは、情報に接した時、最初に行わなければならない行動です。事実と意見を、情報に接した時に意識の中で仕分けてさえいれば、大きな問題は生じません。しかし、例えば、意見を事実と誤認して判断したり行動したりすると、取り返しのつかない結果を招くこともあります。そして一度、水とインクを混ぜてしまうと、簡単に両者を分離できないように、意見を事実として認識してしまうと、後からそれを意識の中で分離することはなかなか難しいものなのです。
これまでに接することの少なかった様々な人々とのコミュニケーションに加え、今ではSNSや生成AIなど、誰でも無限に情報を入手、アクセスできる時代です。しかし、人間の進化はIT発展のスピードには追い付けず、情報を処理する個人の能力は昔から大きくは変わっていません。その結果、情報発信を得意とする人は大勢いても、情報を受け取りその価値を見極め処理できる人はごく限られているのです。
これから社会に出る皆さんには冷静に情報に接し、仕分けることができるスキルを磨き、本来、人間として備え持つ情報処理能力に磨きをかけることを意識してください。情報に操られるのではなく、情報を使える社会人として、これからの活躍と成功を心より祈っています。
令和6年9月30日
公立大学法人福島県立医科大学
学長 竹之下 誠一
事務担当 : 教育研修支援課
学生総務係 : 電話 024-547-1972
FAX 024-547-1984
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