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保健医療交流事業 (講演会) レポート

脊髄小脳変性症の治療と療養生活について

いわき市・令和5年3月11日(土)

講演の様子1

講演会は、令和5年3月11日(土)13時20分から、いわき市にあるいわき市総合保健福祉センターを会場に定刻どおり開催されました。講師は、脳神経内科学講座の金井数明教授が務められました。

講演は「脊髄小脳変性症の治療と療養生活について」をテーマに行われました。

初めに、神経変性疾患とは昔は神経細胞が「原因不明の変化を起こし死滅する疾病」と呼ばれていましたが、近年の研究の進歩により、神経細胞が何故障害されるか解明が進んできており、「神経細胞の数が通常より早く減ってしまう病気」とされています。脊髄小脳変性症は神経変性疾患の1つであり、主に多系統萎縮症(MSA)と家族性脊髄小脳変性症に分かれると説明されました。

脊髄小脳変性症とは歩行失調などの運動失調を主症状とする神経変性疾患の1つであり、臨床的には「1.徐々に発症し、緩徐進行性の経過を示す」、「2.小脳性ないし脊髄後索性の運動失調を主症状とする」ものであり、運動失調のみを呈する場合もあるが、それ以外の症候を示す場合も少なくなく、遺伝性のものと孤発性のものとがあるとのことでした。

また、金井先生曰く、通常多くの場合、脊髄小脳変性症には家族性脊髄小脳変性症と多系統萎縮症(MSA)が含まれるが、前者と後者で症状や進行などが大きく異なり、加えて、家族性脊髄小脳変性症の中でも個人によって症状や進行などが大きく異なるため、これを1つのグループとして語ることは非常に難しいと話されました。

続いて、運動における小脳の役割を説明され、小脳の役割は「誤差信号を受け取った下オリーブ核からの入力を受けた小脳プルキニエ細胞が歯状核に対して抑制をかけることで運動を制御し、大脳で計画したプログラム通り運動しているかをチェックする役割」であり、小脳に障害が起きると小脳性運動失調を引き起こすとのことでした。小脳性運動失調とは主に「構音障害(呂律が回らない)、手足の細かい動きがぎこちない、歩行時にふらつく、単座位で揺れる・保持ができない」ことであり、これが脊髄小脳変性症の主たる症状と話されました。

脊髄小脳変性症の病因は遺伝性と孤発性があり、前者は既知のものの多くがポリグルタミン病であり、後者については未だに良く解明されていないとのことでした。
 ポリグルタミン病とは翻訳領域のCAGリピートが異常に長くなることによって生じる病気の総称であり、CAG→グルタミンとなるためタンパク質の中でグルタミンの繰り返しが異常に長くなると話されました。

また、家族性脊髄小脳変性症は下記形態に分かれることも説明されました。

○多系統型家族性脊髄小脳変性症(代表例:MACHADO−JOSEPH病、DRPLA)
→常染色体優性遺伝、遺伝性の脊髄小脳変性症の中で最多(日本、世界ともに)
○純粋小脳型家族性脊髄小脳変性症(代表例:SCA6)
→(臨床症状)発症は50歳前後、ほぼ純粋な小脳性運動失調、小脳に現局した萎縮が見られる

続いて、脊髄小脳変性症の療養上の問題点について説明されました。
 療養上の問題点は病型(家族性脊髄小脳変性症か多系統萎縮症かなど)によって異なるが、主に下記が挙げられるとのことでした。

・小脳性運動失調の進行:杖歩行→車椅子→寝たきりへの移行
(しかし、通常進行はゆっくりで生涯杖歩行レベルで留まる患者もいる)
・嚥下障害:繰り返す誤嚥性肺炎
・排尿障害:繰り返す尿路感染症
・末梢神経障害:筋力低下の進行
・遺伝の問題(子どもへいつ、どのように情報を伝えるか)
・遺伝子診断をどうするか(メリットとデsメリット)
 メリット :見通しが立てられ、今後の療養計画に役立てる。
      病気と向き合う一つのきっかけとなる。
 デメリット:遺伝の問題と直面せざるを得ないこともある
      (自分一人だけに留まらない、家族の恋愛、結婚、出産など)

続いて、脊髄小脳変性症の治療方法について説明されました。 金井先生曰く、対症療法は実際には困難なものが多いが、現在では下記治療方法があるとのことでした。

○小脳性運動失調
 服薬:セレジスト(初期のみ、純粋小脳型には若干の効果がある)
 リハビリは有効(特に歩行、嚥下・構音)、場合によっては
 杖使用、歩行器使用、車椅子使用も検討していく
○パーキンソン症状
 L−DOPAの使用(一定程度反応する、早期に効果が減弱する人も少なくない)
○末梢神経障害
 手足のつりやすさ:塩酸メキシレチンなどが有効
 手足のしびれ:プレガバリン(リリカ)、ミロガバリン(タリージェ)などが有効
○排尿障害
 頻尿:尿閉に注意しながら薬物療法を行う(頻尿と尿閉は尿閉の方が怖い)
    可能であれば、尿流動態検査を行った方が良い
 残尿:α-ブロッカーを使用するが、OHを悪化させることもある
○排便障害
 緩下剤から刺激性下剤へ徐々に移行する
 大建中湯やパントシンを併用する
 3-4日に1回の便通はかならずキープする

最後にまとめとして、脊髄小脳変性症には多様な病型があり、治療については対症療法も十分でない症状もあるが、リハビリと併せたきめ細かい対症療法がADLを少しずつ改善し得る可能性も十分にある。神経変性疾患の生物学的バックグラウンドも徐々に明らかになってきており、そのような分子病態に基づいた治療が計画されつつあると話され、御講演を終えられました。

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