菊地臣一 コラム「学長からの手紙  〜医師としてのマナー〜

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38.社会人の評価は普段の何気ない行動でされる

学生時代には学生に対する評価は試験で行われます。誰の目にもはっきりした評価方法と評価基準があります。ですから、学生はその試験にのみ全力投球すれば特に問題なく卒業出来るわけです。卒業すると試験が無くなります。これは非常に心が晴れ晴れとしますが、しかし現実はもっと厳しいのです。何故なら社会人、例えば医師になってからの医師としての評価は日常業務、或いは生活上の何気ない言動からされてしまうのです。しかも、その評価は前にも述べた様にその人にとってはOne of themでも、相手にとってはOne and onlyですから、たった一度の出会いがその人の自分に対する評価を決定づけます。

私自身の経験を記してみます。私は教授就任の時に予約を取らず、案内も連れずに、福島県内に支店をおいている製薬メーカー、器械メーカー合計19社と装具社4社を表敬訪問しました。予約もなしに行ったものですから、相手は私が何者かは判りません。私は常日頃背広を着ず、ブレザーを着ております。顔が顔だけに一見すると近代やくざです。そこで2、3社の応対は様々で、色々な事を私に教えてくれました。

S社では、私が受付で人が居ない為に大きい声で名刺を机の上に置き「就任の挨拶に来ました」と言っても何の応対も無く、そのうちに煙草を吹かしながら手で名刺をもてあそび、その名刺に煙草を吹きかけながら何の用があるんだという感じで出てきました。私が挨拶だけして、帰る為にエレベーターの前に居ると慌てて飛んできて、「只今は失礼しました。どうぞ、お入り下さい」と言いました。結局彼は人を肩書きで判断しているわけです。また、彼の頭には、よもや大学の教授が就任挨拶に自分達の会社まで足を運ぶとは思ってもいなかったのでしょう。しかし、私の訪問は計らずも彼の本来持っている人間性をむき出したわけです。

また、C社では、私が挨拶に行くと、受付の女の人が電話をしている営業所の所長に敢えて声をかけ、手短に私の事を告げ直ぐに応対させました。Y社では受付の女の子が電話をしているトップに対して、私が来ているという事をなかなか告げられずにおり苛々し、結局私はトップに挨拶が出来ませんでした。私の訪問で計らずも会社の中の規律ないしは秩序が露呈されたわけです。

この様に人はどんな時に評価されるか判りません。また、逆に人はどんな時に自分を評価しているか判りません。白衣の時は絶えず緊張せよという事は前に述べましたが、その他でもはやり公的な業務に携わっている時には誰が訪問してくるか判りません。また、誰がどんな目的で何を見ているかも判りません。絶えず最低限のマナーは心得て対応にあたるべきだと思います。

 

 

 

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