菊地臣一 コラム「学長からの手紙 〜医師としてのマナー〜」
55.ちょっとした思いやりを
ちょっとした思いやりがその人間の印象を大幅に良くします。例えば、ファックスで手紙や論文を送るとします。その時に、送る場合にあらかじめ送る事を一言伝える、或いはファックスを受けとった時に、確かに何枚受けとりました、有難うございました、の一言がどれ程相手の心証を良くする事か考えてみるべきです。この様な心使いをしてもしなくても結果は同じです。しかしちょっとした手間で大幅に印象が良くなるならば、その手間を惜しむべきではありません。
こんな事は、日常業務上幾らでも有ります。手術を終了して戻って来たドクターがいた時に、そのドクターにさり気なく後輩、或いは秘書、或いは同僚がお茶を出したらどんなに相手の心が安らぐでしょう。逆に手術が終わって緊張感を和らげようとしている時に、溜まっていた仕事や伝言を機関銃の様に言われたら、相手は怒らなくてもいいのに怒るかも知れません。ちょっとした思いやりがその状況を一変させます。
手術が終わった時には家族は、主治医から話を聞いた後直ちに家で待っている家族に連絡しようとするでしょう。そういう場合、もし家族が気が動転していたり、或いはたまたま家族が折り悪しく居なかったら、自分が少しでも時間があったら、その家族に一言電話をしてあげたらどんなにか家族は喜ぶでしょう。私は、自分の親しい間柄の人には、手術が終わった後にその頼まれた友達へではなく、その親御さんや気遣って待っている家族に電話をしてあげています。そういう事が積もり積もって人の輪になっていくのです。ですからちょっとした思いやり、自分を天動説から地動説に変えて考えてみれば、幾らでもそういう事が有る筈です。