菊地臣一 コラム「学長からの手紙  〜医師としてのマナー〜

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56.人より努力しないで人より上に立つと思うな

医師は一般に普通の人よりも自己顕示欲が強い様に思います。そのこと自体は医師の場合は自分を磨かなくてはなりませんから、いい面も大いにあります。自己顕示欲があるのは生涯教育という点ではプラスの面もあります。しかし、仕事を覚え日常業務を勉強もしないでこなせる様になると、だんだんと自己顕示欲の悪い面が出てきます。それは、義務や努力は人と同じか人よりはしたくない、しかし、人よりは上に立ちたい、或いは、人よりはフットライトを浴びたい、という事が出てきます。

考えてみればおかしな事で、私の口癖ですが、「人より努力しないで人より上に立てるなら私にも一口乗せろ」と言う台詞が出てきます。考えても見て下さい。人より努力しないで、人より良いチャンスには出会えません。幸運やチャンスも努力で勝ち取るものだと思います。医師の場合は、一所懸命に研究や臨床に努力すればする程、はっきりと何等かの形で報われる事が分かります。知名度が上がりよそから講演を頼まれたり、学会では若いドクターに質問されたり、シンポジストを依頼されたり、依頼原稿を依頼されたりします。或いは患者さんもその名声を慕って集まって来ます。これは、医師の自己顕示欲も満足させてくれますし、また、更に自分自身の励みにもなります。

しかし、そういった得られた結果だけを若い人が見て、その途中経過を見ようとしません。その途中経過には、血の滲むような努力、或いは、愚直なまでのひたむきさや努力がある事を人はなかなか見ようとはしませんし、また、見ようとしないとなかなか見えてくるものでもありません。ちょっと考えれば直ぐに分かる事ですが、初めてやる手術がうまく出来る筈があるでしょうか。

ゴルフでも、どんな素質がある人でもいきなりコースに出て良いスコアで回れる人がいるでしょうか。最初は球にさえ当たらないのではないでしょうか。それは医師の世界も全く同じで、いきなり一流にはなれませんし、なる筈もありません。やはり一流になるにはその陰でひたむきな努力や研鑽がある筈です。どうぞ、その結果だけでなく、その結果に至るまでの過程の努力の跡や苦労の跡を見て、それを自分の研修の糧にすべきだと思います。そういう意味で一流と言われる人の話や経験を聞くのは何よりの勉強だと思います。

 

 

 

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