菊地臣一 コラム「学長からの手紙 〜医師としてのマナー〜」
147.経済観念を持て
最近、スキー合宿や医局旅行を巡って一悶着起きました。まだ記憶に新しいので、覚えている方もいると思います。これを今後の教訓に生かす為に敢えてここで取り上げてみます。
スキー合宿や医局旅行は、医局や医局に関係する人達の親睦の為に行うものです。当然、受益者負担です。しかし、医局の親睦を計るという大義名分の故に、医局は常に一定の金額を補助しています。但し、それはあくまでも補助であって、医局がその金銭的な負担の大部分を負うというものではありません。この度のスキー合宿で、当初あまりにも個人負担が大きいという見積りが、私に報告されました。
そこで、「普段御世話になっている基礎講座の先生方にそんな多額の金を負担してもらえば、何の為のお誘いか分からない。基礎講座からの出席者の負担を押さえる為に世間並みの会費にして、足りない分は医局で負担したらどうか」という提案をしました。スキー合宿の後、会計報告を待っていましたが、二週間たっても三週間たっても報告が来ません。私は業を煮やして、「今日中に会計報告書を持って来なければ、以後スキー合宿はまかりならぬ」という申し渡しを担当者にしました。その結果、大雑把な収支報告書が来ました。驚いた事に、医局員から徴収していないのです。医局員以外の人からは徴収しているにも関わらずです。私は怒りました。
医局の行事は医局が主体となって行い、原則として受益者負担です。例え、どれ程多額の補助金や寄付金を集めたとしても、原則は自己負担です。今回の件には二つの大きな問題があります。一つは、受益者負担という原則を踏みにじって、参加者のうち医局員からだけ金を徴収していなかったという事実です。この様な事は私の教授就任以来一度もなかった事です。金額の多寡の問題ではありません。受益者が幾らかでも自分で金を出すという事実が大事なのです。
第二に、結果的には一人二万ぐらいの自己負担になったわけですが、そういう事が最初から分かっていれば、何故普段御世話になっている基礎講座の先生方から金を徴収するのですか。「普段色々と御世話になっております、これは感謝の気持ちです」と最初から招待という形で誘った方が、後から「安く上がりましたからお金を返します」というよりどんなにか相手に与える印象は違ったものになったでしょう。
医局旅行も私に収支報告書がきたのは二週間後です。これは詳しく問い質してはありませんが、旅行社の手違いだという事だそうです。しかし、うちの医局の、私の教授就任以前からある良い点は、何か会合する時には必ず会費を集めるというシステムがある事です。また、会計報告が次の医局会には必ず報告されるという事です。寄付を戴くという事に関しては批判もあるのでしょう。しかし、少なくとも自己負担の原則を崩して来なかったという事が大切だと私は思っています。
今後も研究遂行、或いは技術研修の為、或いは海外国内留学の為に私は多額の金を医局に集めなければなりません。その為にもその金の収支はガラス張りにしておかなくてはなりません。しかも、医局運営の為の経済面に関して、自分達で最大限の努力をしているという事を内外に明らかにしなければなりません。その様な医局の体制にあって、自分達のレクリエーションのための金銭の出し入れは、幾ら厳しくしても厳しくし過ぎるという事はありません。心して下さい。