菊地臣一 コラム「学長からの手紙 〜医師としてのマナー〜」
148.何気ない一言がトラブルの元になる
最近、二年も前の外来でのちょっとした出来事が、今になって大きなトラブルになり病院中を大騒ぎさせる騒動になりました。ここでその話を披露して、以前の医局員への手紙にも書きましたが、「言葉に注意しろ」という事をもう一度強調したいと思います。
子供の骨折に対してギブスを巻き、後日ギブスを除去してみたら褥瘡を作っていたそうです。医師は何気なく、「何でこんなになるまで我慢して黙っていたんだ」という事を非難がましく口にしたそうです。子供はえらく傷ついたそうです。「よく我慢したね」と褒めてもらえると思ったのに、逆に叱られたからです。医師にしてみれば「痛かったら言ってくれ」という思いでしょう。しかし、患者という立場からは、治療としてのギブスだからなるべく我慢しなければならないと考えたのでしょう。私でも患者だったらそう思います。
そういう背景を考慮したら、「痛かったでしょう。申し訳なかったね。一言言ってくれれば見てあげたのに」という言い方をすれば、何のトラブルもなく過ぎたでしょう。しかし、ぞんざいな言い方での何気ない一言がトラブルの元になって、二年後、マスコミでのHIVの非加熱製剤の問題が起きたと同時に、それに触発されて病院に抗議を申し込んできました。助教授以下のスタッフが慎重に対応して事なきを得ました。
この事実は、何気ない言葉が患者さんを如何に傷つけるかを示したものです。以前にも度々言っている様に、一言多く話すことが医師として大切な事です。一言多いという事は、余計な事を話すという事ではありません。常に患者さん側に立って、「こんな事を医師から言われたら嬉しいだろうな」、「こんな事を言われたら患者は私を信用してくれるだろうな」という言葉を言うのです。常に安心感を与える様な台詞を吐くことが肝心なのです。これを他山の石として、医局員の皆さんは注意して欲しいものです。