菊地臣一 コラム「学長からの手紙 〜医師としてのマナー〜

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152.学習効果は遺伝しない

以前にも書いたかと思いますが、「医師としてのマナー」というタイトルでの医局員への手紙の元々の目的は、私自身の失敗を、次の世代もその次の世代でも繰り返しているのを見ているからです。同じ失敗はやむを得ない、必ず起きます。しかし、その失敗によって起きる様々な問題を少しでも少なくすることが必要です。患者さんへの負担を最小限に留め、医師自身の苦痛も少なく出来れば理想的です。医師として大成するためには様々なトラブルを経験することが必要です。しかし、医師としての様々なトラブルに伴う経験を、なるべく周りに被害を与えない形で研修を積める様にすることが必要です。

これも前に書きましたが、医師は、合併症を経験せずに大成はしません。合併症を経験して初めて名医と言われる立場に立てるのです。残念ながらこれは事実です。しかし、そういう経験を踏まえて上の人間が下の人間に、「こういう合併症が起きるから注意せよ。こういう時には、こういうことに注意しなければならない」など色々と教訓を話します。しかし、その教訓が、殆ど次の世代の人間にとって、トラブルの予防に役に立たないのも事実です。しかし、だからといってこれを放置しておくわけにはいきません。先程言った様に、患者さんや医師へのダメージを少しでも少なくする為に、この「医師としてのマナー」を述べているのです。

医局員の諸君も私が「この様な合併症が起きる可能性が有る。この様なトラブルが起きる可能性が有る」と言うと、殆ど必ずと言ってよい程起きていることに気付いていることと思います。何度も繰り返しますが、それは仕方が無いことです。学習効果は遺伝しません。しかし、その後の対応に就いて、以前の経験を生かしてなるべくスムーズに、そして両者の負担を最小限にして対処出来る様にするための最大の手本は、先人達の経験です。その意味でも、この医局員の手紙も暇な時には読み、先輩ともたまには酒を酌み交わしながら耳学問をし、少しでも先輩の経験を、自分の今後必ず起こるであろう合併症やトラブルに対する時の迅速な対応を可能にする為の参考にして下さい。

 

 

 

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