菊地臣一 コラム「学長からの手紙 〜医師としてのマナー〜

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155.出来ない約束はするな

この手紙は、教授就任依頼、数が多くなった医局員に自分の真意を伝える為に書き続けてきたものです。その結果、一定の周期で同じ事の繰り返しを書いている様になってしまいました。私からスタッフへ、スタッフが研修医へ、と世代を超えて伝えていく方式が、必ずしも上手くいっていないのかも知れません。だからといって、私がその医局のカラーを作って行く教育方針を放棄する訳にはいきません。時々、莫迦莫迦しくもなりますが、それも自分の教育者としての義務なので、果たさない訳にはいきません。

先日もまた、苦言を呈する光景を目にしてしまいました。アポイントを取って面会に来ていた人が医局に座っていました。秘書がお茶を出していたかどうかは定かではありません。あまり長い間座っているので、どうしたのかと思い尋ねてみました。約束の時間から30分以上もたっているが、まだ相手の医師が現れていない様でした。そこで私は、秘書に本人に連絡を再度する様に命じました。しかし、その指示内容が、噛んで含める様に言わなかった私が悪いせいか、伝達内容はただ「人が待っている」ということの伝達でした。私は業を煮やして、人を平気で待たせる医局員を厳しく注意をしました。

このようなトラブルに就いては、No.59 にも書いてあります。我々は、医局に出入りしている人達とは、職業の内容は色々ですが、仕事ということを仲立ちにして対等な立場で付き合っている訳です。その間には、ディーラーとクライアントという関係があるだけです。勿論、上下関係はありません。ですから、約束をした以上はそれは契約ですから、どんなことをしても守らなければなりません。

予め危惧される様なら約束はしない、その約束が果たされない可能性があるなら、約束は最初からしないことです。それでも尚、約束をせざるを得ない環境にある時は、予めその旨を話し、了解を相手からとっておくことです。しかも、現実にもし約束の時間に遅れる様であれば、催促されるまでもなく、遅れることの連絡とどのくらい遅れるのかを相手に知らせるのが礼儀というものです。これも No.126 に書きました。期限のある待機は待てるのです。何時果てるとも知れない期限のない待機は、精神的に参ってしまいます。

自分を信頼させる第一歩は、約束を守ることです。それは、私がBSLのオリエンテーションの際に第一に言っていることです。それを医局のスタッフが守れない様では、この医局の将来もたかが知れてます。また、その人間の将来性もたかが知れてます。部下はトップの資質以上の人間には、育たないと言われればそれまでですが、少し自らを顧みて、プロフェッショナルとしての基本を、もう一度医局員の手紙の中から拾いだし読んでみて下さい。

 

 

 

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