菊地臣一 コラム「学長からの手紙 〜医師としてのマナー〜

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182.「一言多く」が患者の気持ちを豊かにする

医師や医療システムに対する批判が相変わらず続いています。一方、その裏では医師の激務に対して、感謝をする患者さんもそれと同じ位、或いは、ひょっとしたらそれより多い患者さんがいて、患者さんと医師とが良好な関係を築いていることも多く見られます。最近、患者さんから直接聞いた良い話があったので、明るい話題として記しておきたいと思います。

慢性の背部痛と足の痺れを長く訴え、遠くから通ってきている患者さんがいます。その患者さんに、我々の同僚が年末の外来で最後に「お大事に。良いお正月をお迎え下さい」と言ったそうです。その患者さんは、長い間あちこちの病院にかかって手術も受けています。数多くの病院との長い付き合いの中で、「良いお正月を」という言葉を掛けられたのは、初めてだそうです。

そんなことで、その年は凄く豊かな気持ちで一年を過せたということを目を輝かせて私に報告をしてくれました。私はそれを聞いて、自分の医局員を誇りに思うと同時に、その様な言葉を発することが出来る医局員を持ったことを誇りに思います。何気ない一言が患者さんの心を豊かにするものだと再認識させられました。

以前( No.7 )にも書いた様に、一言多く患者さんに話すことは大切なことです。黙っていても、相手が分かってくれるというのは、有り得ません。一人一人の人生は、生まれた時から異なっています。その異なった人間が分かり合えるのは言葉による交流だけです。それだけに、ましてや、悩める患者さんとそれに対応する医師の間では、信頼関係の確立は尋常な努力では出来ません。従って、自分でこうしてあげれば良かったと思う様なことを、ためらわずに一言言う事が大事なのではないかと思います。

 

 

 

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