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「学長からの手紙」番外編 〜 新聞・雑誌への寄稿文から 〜

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2010年 6月 6日付 福島民報 「日曜論壇」( 2 )

「福島民報」は、県内最大の発行部数をほこる地方紙の日刊新聞です。「日曜論壇」は県内各界の第一線で活躍する著名人によるコラム欄で、半期ごとに執筆陣を更新しながら毎週日曜日の本紙2面(社会欄)に掲載されています。
菊地臣一本学理事長兼学長は、今年度上半期の執筆陣9名の1人として選ばれ、4月〜9月まで3回の執筆を行っております。(次回掲載は8月8日予定)

福島民報社  http://www.minpo.jp
   (
日曜論壇掲載ページ「論説・あぶくま抄」 )  http://www.minpo.jp/column.html

医療とコンピューター化

プロ集団が“治療”を目標に日々闘っているのが医療の現場である。
コンピューターによる情報技術(IT) 化の波が今、医療現場を大きく変えつつある。

医学の進歩は、われわれに医療における信頼関係の重要性を再認識させた。共感や励ましが治療効果や満足度を向上させることも明らかになった。
この事実は、IT化の中に、医療崩壊に繋がる深刻な問題が含まれていることを示している。
それは、人と人との直接的なかかわりの重要性である。

今の医療現場では、同僚や関係者と顔を合わせないで一日が過ぎていくこともある。顔を突き合わせての意思疎通の希薄化である。
一方、診療という行為は、ほとんどが医療従事者と患者さんとの一対一の関係で成立している。

コンピューターで治療方針を引き出すのは医療のごく一部でしかない。患者さんと信頼を構築しながら治療方針を話し合う。治療中は、患者さんに共感を示し、励ますという行為が続く。
この当事者間の交流が医療の質や患者さんの満足度を決めてしまう。

現場では、若手がしくじりをして、先輩から怒鳴られながら研修している。そんな中にも、若手は先輩の優しさを肌で感じて先輩を慕うのである。そんな日には飲みに誘ってくれる仲間の気遣い、そして先輩や上司のさり気ないその後の気配りに若手が涙する日々の積み重ねがある。
また、症例検討会、打ち合わせ、そして報告や会議という行為の中で、人は表情や声音から相手の考えを読み取る。その中から、師匠や先輩は弟子や後輩のやる気や体調、そして悩みの有無などを看て取る。

このような、人と人との直接的な交流から、人間は、相手の心を読み取ったり、好印象を持ってもらったりするノウハウを身に付けていく。表現手段には、言葉だけではなく、表情、立ち振る舞い、服装、自身の人生行路までもが含まれる。
このような日々の研鑽により、若手は自分の思いを相手に伝えるための気配りが、さり気なくできるようになる。

医療人にとっては、IT全盛という時代だからこそ、患者さんからの信頼を一瞬にして得られるかどうかは、大げさにいえば医療のプロとして自分の全人格をかけた戦いでもある。
医療のリーダーである医師が他者への優しさや気配りをさり気なく発揮すると、その場の空気が和み、患者さんも少しは癒やされる。この積み重ねが、“良い医療”である。

コンピューター万能の時代だからこそ、人との直接的交流の重要性を各自が再認識して、自らを磨き、積極的に他人との接触を図ることが大切なのである。
直接的な触れ合いが、今という時代、医療に対する国民の信頼を高めることに繋がる。

(福島医大学長)

 

 

( ※ Webページ向けに改行位置を改変し、転載しております)

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