菊地臣一 コラム「学長からの手紙  〜医師としてのマナー〜

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82.ありがとうの一言を

医療の現場は多種多用な業種の人がチームを組んで、医療というシステムを動かしています。医師がいなければ医療は動きません。しかし、医師だけでは医療システムは動かないことに我々は注目しなければなりません。その医療システムを円滑に動かすコツは、たった一つのような気がします。それは何かして貰ったらその時「ありがとう」あるいは「助かりました」といった感謝の一言です。円滑に機能させさるのには感謝の言葉一つだと思います。

私自身、医局業務や部下の教育の時に「何でこんなことをやらなければならないのか」と思うことがあります。しかし医局員から「ありがとうございました」「助かりました」の一言でその苦労はふっ飛んでしまいます。それは病院内の業務でも同じことではないでしょうか。円滑に機能させさるのには感謝の言葉一つだと思います。

例えば、放射線の検査をする時に「宜しくお願いします」、終わった時に「ありがとうございました」「お疲れ様でした」という挨拶でどれだけ相手の心が和むでしょうか。相手の非を指弾して相手にその非を認めさせても、問題の解決には決してならないことは我々が普段の業務上よく感じていることです。理で攻めて相手を納得させても、相手の心をYESと言わせなければ何もなりません。その時は相手を理でい追い詰めるよりは「宜しくお願いします」「ありがとうございます」「助かります」という言葉の方が余程効果的です。円滑に機能させさるのには感謝の言葉一つだと思います。

こういう教育のための文章に書くことが適当かどうか分かりませんが、全く私的なことを敢えて書いてみます。私には年老いた母が一人おります。この母は一人暮らしで定期的に私の家に来て、私の身の回りのことを色々と整えてくれます。私も母が買い物をするのは大変だろうと思い、私の身の回りにある戴いた物で母の役に立つような物は取っておいて、母が来た時に持って行けるようにしておきます。私にとってはどうということはない手間暇なのですが、自宅に帰ると机の上に母からの置き手紙があります。円滑に機能させさるのには感謝の言葉一つだと思います。

その手紙には「ありがとうございます」「助かります」という文章だけが書いてあります。そういう一言を見ると、「ああ、やって良かったなぁ」と思い、何とか母の喜ぶ顔が見たい、子供の自分がそういう言葉を親から受けてみたい、という気持ちで更に母に気を配ることになります。これは親子の関係云々ということではなく、人間と人間との関係では、感謝を現す言葉というのは、相手の心を暖かくするキーワードなのではないでしょうか。それを上手に使うことが結果的には仕事を円滑にするコツなのではないでしょうか。多種多用な人達が一箇所に集う病院という組織、この組織を円滑に機能させさるのには感謝の言葉一つだと思います。

 

 

 

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