菊地臣一 コラム「学長からの手紙 〜医師としてのマナー〜」
120.信頼、感謝、敬意
現在本を執筆中で、たまたま私が私の恩師であるMacNabのところにいた時にやった研究論文が最近の雑誌に引用されているのを読む機会を得ました。その中でMacNabと私とのやりとりまでその論文に書いてあるのを初めて知り、深い感慨に捉われました。その時、なぜMacNabは私に、この論文に書いてあるように信頼し、親切にしてくれたのであろうかという事を考えてみました。それを今日は深い感慨と共に述べてみたいと思います。
MacNabと私との間には深い信頼関係があったのだと思います。私は彼のもとで働いた時に、彼に何を言われても、何をされても文句一つも言う気にさえなりませんでした。例え彼に何か言われても、とても彼に何か一言返すなどという事は、思いもしませんでした。それは私が彼を尊敬していたからです。彼は私の滞在中、私の書いた論文を跡形もないほど直して、しかもそれが私が筆頭著者で出してくれました。そういう事が一度ならずありました。
ではなぜ彼は私にそれ程親切にしてくれたのでしょうか。多分彼はただ私が可愛い奴だからそうしてくれたのではないと思います。私はひたむきに努力しました。英語は全くできませんでしたから、それを行動でなんとかカバーしようと思い、医師としてのマナー( No.36 , 37 , 39)に書いたようなことを徹底してやりました。そういう私のひたむきな生き方や彼への尊敬の念を肌で感じ、MacNabが私自身を愛しく思って辛抱強く教え、親切にしてくれたのではないかと思います。
そこでこの我々二人の関係を考えてみました。我々の間には相互に信頼、感謝、敬意の気持ちがあったからこそ、このような外国留学では稀有な関係が成り立ったのではないでしょうか。
そういう関係の前提には、私が彼に尊敬の念を持っていたという事実が重要であることは言うまでもありません。人間は、尊敬され、感謝され、敬意を払って貰えばやはり一所懸命その人間を愛しく思い、指導するでしょう。ですから前の医師としてのマナー( No.8 )にもあるように、「誠意が欲しければ先ず自ら誠意を示せ」ということに繋がるのではないでしょうか。お互い心しましょう。