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理事長室からの花だより
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理事長室からの花だより
vol.94 − 哀感 −
気がつけば10月。秋の七草も、今年は大学周辺の道路傍で萩を見つけただけです。
考えてみれば、萩は木の花ですが、何故か草花に入っているのが不思議です。
今朝(※編集註:執筆日の9月30日)、早朝、曇り空の下に曼珠沙華の群生が目に入りました。
去年はそこには見当たらなかっただけに、天からの贈り物として、車中から楽しませて戴きました。
秋は、哀感(ペーソスといった方が現代的なのでしょうか)の季節です。二度と取り戻すことの出来ない昔のことが脳裡を過ぎります。
王義之の蘭亭叙
後之視今亦由今之視昔悲夫
(後世の人たちが私たちを見るのも、
今の私たちが昔の人たちを見るのと同じことだろう。悲しいことだ)
(「芸術新潮」1998,10月号)
この普遍的な嘆惜が心の底を打ちます。
今から30年も前(1981年)、タイトルに惹かれ購入したピアノソロのカセットテープに心奪われました。
Pierre Buzon(ピエール・ブゾン、後のアルバムでは“ビュゾン”の表記)の「La Vie」(人生)vol.1と2です。
このピアニストは、解説書(ライナーノートというのが今風か)によれば、1981年に帝国ホテルの、今はないレストランで3ヵ月程弾いていたとのことです。
当時の彼の演奏が、どれ程聴く者の心に衝撃を与えたかは、今は亡き目利きであった荻昌弘や菅野沖彦が解説で激賞していることで窺い知れます。評価の高さは、その後、立て続けに1984年と1985年に3枚のアルバムが出されていることでも裏付けられます。
しかし、CDは販売されず、今では、真に「失ったものでしか語れない」のが残念です。
何故、この演奏が人の心を打つのかうまく表現は出来ません。後に出された3つのカセットアルバムには感激しませんでした。抒情性や粋と惰性は紙一重です。
消えた名曲といえば、CDでは発表されていないFrank Mills(フランク・ミルズ)の「メアリー、スコットランドの女王」(作曲が誰か不明、解説書なし)、Hagood Hardy(ヘイグッド・ハーディ)の「The Homecoming」(帰郷)が脳裡にすぐ浮かびます。
今は、執務室で、Bud Powell(バド・パウエル)の「I'll keep loving you」を繰り返し聴いています。
クリアな音が奏でる心に染みる哀感が、そぼ降る雨のように波立つ心を落ち着かせてくれます。
先日、盛岡の学会で贈呈された石川啄木の「一握の砂」、帰りの車中で久し振りに目を通してみました。
秋を詠った
さらさらと雨落ち来(きた)り
庭の面(も)の濡れゆくを見て
涙わすれぬ
若い時は、感傷的として印象に残らなかったところが目に飛び込んできたことに、驚きと同時に哀歓の積み重ねを感じました。
今週の花材は、執務室は秋の深山の中に日溜まりを見つけたような気配を感じます。
秘書室は、落ち着いたアレンジで紫の高貴さを引き出しています。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
考えてみれば、萩は木の花ですが、何故か草花に入っているのが不思議です。
今朝(※編集註:執筆日の9月30日)、早朝、曇り空の下に曼珠沙華の群生が目に入りました。
去年はそこには見当たらなかっただけに、天からの贈り物として、車中から楽しませて戴きました。
秋は、哀感(ペーソスといった方が現代的なのでしょうか)の季節です。二度と取り戻すことの出来ない昔のことが脳裡を過ぎります。
王義之の蘭亭叙
後之視今亦由今之視昔悲夫
(後世の人たちが私たちを見るのも、
今の私たちが昔の人たちを見るのと同じことだろう。悲しいことだ)
(「芸術新潮」1998,10月号)
この普遍的な嘆惜が心の底を打ちます。
今から30年も前(1981年)、タイトルに惹かれ購入したピアノソロのカセットテープに心奪われました。
Pierre Buzon(ピエール・ブゾン、後のアルバムでは“ビュゾン”の表記)の「La Vie」(人生)vol.1と2です。
このピアニストは、解説書(ライナーノートというのが今風か)によれば、1981年に帝国ホテルの、今はないレストランで3ヵ月程弾いていたとのことです。
当時の彼の演奏が、どれ程聴く者の心に衝撃を与えたかは、今は亡き目利きであった荻昌弘や菅野沖彦が解説で激賞していることで窺い知れます。評価の高さは、その後、立て続けに1984年と1985年に3枚のアルバムが出されていることでも裏付けられます。
しかし、CDは販売されず、今では、真に「失ったものでしか語れない」のが残念です。
何故、この演奏が人の心を打つのかうまく表現は出来ません。後に出された3つのカセットアルバムには感激しませんでした。抒情性や粋と惰性は紙一重です。
消えた名曲といえば、CDでは発表されていないFrank Mills(フランク・ミルズ)の「メアリー、スコットランドの女王」(作曲が誰か不明、解説書なし)、Hagood Hardy(ヘイグッド・ハーディ)の「The Homecoming」(帰郷)が脳裡にすぐ浮かびます。
今は、執務室で、Bud Powell(バド・パウエル)の「I'll keep loving you」を繰り返し聴いています。
クリアな音が奏でる心に染みる哀感が、そぼ降る雨のように波立つ心を落ち着かせてくれます。
先日、盛岡の学会で贈呈された石川啄木の「一握の砂」、帰りの車中で久し振りに目を通してみました。
秋を詠った
さらさらと雨落ち来(きた)り
庭の面(も)の濡れゆくを見て
涙わすれぬ
若い時は、感傷的として印象に残らなかったところが目に飛び込んできたことに、驚きと同時に哀歓の積み重ねを感じました。
今週の花材は、執務室は秋の深山の中に日溜まりを見つけたような気配を感じます。
秘書室は、落ち着いたアレンジで紫の高貴さを引き出しています。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
今週の花
【理事長室】
■ベニスモモ バラ科/落葉高木/原産:西南
アジア・コーカサス/新葉から赤色を帯びているの
が特徴で、秋に濃い赤紫色になる。花期は4〜5月
で、葉に先立ち桜に似た花が咲く。果実は7〜8月
頃に熟し食用になるが酸味があり、主に園芸用とし
て栽培される。
■キングプロテア ヤマモガシ科/原産 南アフ
リカ/《名前の由来》ギリシャ神話の海神プロテウス
の名より。同属と思えないほど変異種が多いことか
ら、自由自在に変身できる「プロテウス」の名前にち
なんで/直径30cmにもなる大きな花。圧倒的な存
在感で、“花の王様”とも呼ばれる。原産地・南アフ
リカ共和国の国花。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/941.jpg
(無断転載等はご遠慮ください)
■ベニスモモ バラ科/落葉高木/原産:西南
アジア・コーカサス/新葉から赤色を帯びているの
が特徴で、秋に濃い赤紫色になる。花期は4〜5月
で、葉に先立ち桜に似た花が咲く。果実は7〜8月
頃に熟し食用になるが酸味があり、主に園芸用とし
て栽培される。
■キングプロテア ヤマモガシ科/原産 南アフ
リカ/《名前の由来》ギリシャ神話の海神プロテウス
の名より。同属と思えないほど変異種が多いことか
ら、自由自在に変身できる「プロテウス」の名前にち
なんで/直径30cmにもなる大きな花。圧倒的な存
在感で、“花の王様”とも呼ばれる。原産地・南アフ
リカ共和国の国花。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/941.jpg
(無断転載等はご遠慮ください)
【秘書室】
■バンダ(バンドーラブルー) ラン科/多年草/原産:
東南アジア/花弁に綺麗な網目模様が入る。洋ランの中
でも特異なブルー系の美しい花色。他に桃・橙・黄色なども
ある。「バンドーラブルー」は濃い紫色の品種。
■ユーカリ(ロパスタペリー) フトモモ科/常緑高木/
原産:オーストラリア/オーストラリアを中心に約600種分
布。コアラの食用樹として有名。コアラが食べるユーカリは
一部の品種のみで、切花で流通しているものは食べない。
原産地オーストラリアでは、森林の4分の3がユーカリ。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/942.jpg
(無断転載等はご遠慮ください)
■バンダ(バンドーラブルー) ラン科/多年草/原産:
東南アジア/花弁に綺麗な網目模様が入る。洋ランの中
でも特異なブルー系の美しい花色。他に桃・橙・黄色なども
ある。「バンドーラブルー」は濃い紫色の品種。
■ユーカリ(ロパスタペリー) フトモモ科/常緑高木/
原産:オーストラリア/オーストラリアを中心に約600種分
布。コアラの食用樹として有名。コアラが食べるユーカリは
一部の品種のみで、切花で流通しているものは食べない。
原産地オーストラリアでは、森林の4分の3がユーカリ。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/942.jpg
(無断転載等はご遠慮ください)