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理事長室からの花だより
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理事長室からの花だより
vol.408 − 書 (かく) −
雪柳(ユキヤナギ)が花屋さんに、山野では辛夷(コブシ)です。
出勤時、前照灯を灯(つ)けずに走れます。春です。
“花の雨”、一雨毎(ごと)に暖かくなります。山の端に掛かっている太陽は真紅で、時とともに橙色になります。上空に昇ると輪郭を失います。
こんな空の下、思いは昔日(せきじつ)に及びます。
“夢を語るよりも思い出に浸ることが多くなると、人間(ヒト)は老人に分類される”と言います。
只、人間は思い出に浸ることも時に必要です。それで心の平穏や、笑顔で語り合ったり、人間の温もりを思い出せれば、又、歩み出せるからです。
只、思い出だけでは人間は生きていけません。目標となる“希望”が必要です。
“書”に就(つ)いての思い出です。
己の悪筆(あくひつ)は、周辺で知らぬ者は居(お)りません。
昔、東京で働いていた時です。
敬愛する外科部長に“私は字が下手で”と申し上げたことがあります。先生は、即座に“そうですね”と、笑顔で返されてしまいました。
大学で働く前、福島県は奥会津の小さな病院で院長をしていました。
当時の本学整形外科教授に、定期的に、近況を報告していました。或(あ)る時、教授から「署名は花押(かおう)みたいでも良いから、字はもっと読めるように書いて下さい」と言われてしまいました。
以下は、言い訳です。
悪筆の原因は、頭に浮かぶ事を素早く書き留める程には、手が動かない結果です。
時に、自分でも判読できず、弟子や秘書に聞く始末です。
“君だけには書(しょ)のことに就いて記して欲しく無い”という声が周りから聞こえてきそうです。にも拘(かか)わらず、何度か記しました。
(vol.45 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=70)
(vol.73 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=99)
(vol.101 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=129)
(vol.315 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=354)
齢(よわい)を重ねて、邪念のない書に惹(ひ)かれるようになりました。
良寛(りょうかん)です。
以前から、彼の生き方に関心を持っていました。彼の前半生(ぜんはんせい)は、伝えられている限りでは凄絶です。その帰結(きけつ)として後半生(こうはんせい)があったのでは、と思えてなりません。
今、変わりゆく世の中の早さに感性が随(つ)いていけません。利害を剝(む)き出しにした主張が幅を利かせている今という時代です。だからこそ、良寛の生き方、歌、書に多くの人が憧れを持っているようにみえます。
回首(かいしゅ)す 七十有余年
人間(じんかん)の是非 看破(かんぱ)するに飽(あ)く
往来の跡幽(かすか)なり 深夜の雪
一炷(いっしゅ)の線香 古匆(こそう)の下
彼の最晩年の詩です。
以下、我流(がりゅう)の解釈です。
振り返ってみれば70年以上も生きてきた。
世間の人々の是非を争う様子にあきあきした。
深夜、歩く人も居なくなり、足跡が消える程の雪が道に積もっている。
古ぼけた窓辺に一本の線香を焚(た)き、静かに坐禅をしよう。
音一つしない静謐(せいひつ)な周りの佇(たたず)まいと作者の最後に辿り着いた明鏡止水(めいきょうしすい)の心境が読む者に伝わってきます。
彼の書、良く知られているのは、「天上大風」(てんじょうおおかぜ)です。
小料理や酒席の店に写しが飾られているのをみます。勿論、大きな字も良いのですが、小さな字体の書に彼の魅力が凝縮されています。
余分なものを全て削(そ)ぎ落とした字体、微妙なずれと揺れ、ゆったりとしたなかに見られる緊張感、ここまで辿(たど)り着くには、どうしたら良いのでしょうか。
熊谷守一(くまがい・もりかず)や中川一政(なかがわ・かずまさ)の書にも同じ雰囲気を感じます。
今という時代、パソコンで書く文章からは、“書は人なり 人は書なり”は、当然ながら、伝わってきません。
コンピュータで印字された原稿に手を入れる時、昔同じような作業をしていた頃を思い出します。隔世の感があります。
今週の花材は、両室で対照的で、執務室は旅立ち、秘書室は見送りの様(よう)です。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
出勤時、前照灯を灯(つ)けずに走れます。春です。
“花の雨”、一雨毎(ごと)に暖かくなります。山の端に掛かっている太陽は真紅で、時とともに橙色になります。上空に昇ると輪郭を失います。
こんな空の下、思いは昔日(せきじつ)に及びます。
“夢を語るよりも思い出に浸ることが多くなると、人間(ヒト)は老人に分類される”と言います。
只、人間は思い出に浸ることも時に必要です。それで心の平穏や、笑顔で語り合ったり、人間の温もりを思い出せれば、又、歩み出せるからです。
只、思い出だけでは人間は生きていけません。目標となる“希望”が必要です。
“書”に就(つ)いての思い出です。
己の悪筆(あくひつ)は、周辺で知らぬ者は居(お)りません。
昔、東京で働いていた時です。
敬愛する外科部長に“私は字が下手で”と申し上げたことがあります。先生は、即座に“そうですね”と、笑顔で返されてしまいました。
大学で働く前、福島県は奥会津の小さな病院で院長をしていました。
当時の本学整形外科教授に、定期的に、近況を報告していました。或(あ)る時、教授から「署名は花押(かおう)みたいでも良いから、字はもっと読めるように書いて下さい」と言われてしまいました。
以下は、言い訳です。
悪筆の原因は、頭に浮かぶ事を素早く書き留める程には、手が動かない結果です。
時に、自分でも判読できず、弟子や秘書に聞く始末です。
“君だけには書(しょ)のことに就いて記して欲しく無い”という声が周りから聞こえてきそうです。にも拘(かか)わらず、何度か記しました。
(vol.45 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=70)
(vol.73 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=99)
(vol.101 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=129)
(vol.315 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=354)
齢(よわい)を重ねて、邪念のない書に惹(ひ)かれるようになりました。
良寛(りょうかん)です。
以前から、彼の生き方に関心を持っていました。彼の前半生(ぜんはんせい)は、伝えられている限りでは凄絶です。その帰結(きけつ)として後半生(こうはんせい)があったのでは、と思えてなりません。
今、変わりゆく世の中の早さに感性が随(つ)いていけません。利害を剝(む)き出しにした主張が幅を利かせている今という時代です。だからこそ、良寛の生き方、歌、書に多くの人が憧れを持っているようにみえます。
回首(かいしゅ)す 七十有余年
人間(じんかん)の是非 看破(かんぱ)するに飽(あ)く
往来の跡幽(かすか)なり 深夜の雪
一炷(いっしゅ)の線香 古匆(こそう)の下
彼の最晩年の詩です。
以下、我流(がりゅう)の解釈です。
振り返ってみれば70年以上も生きてきた。
世間の人々の是非を争う様子にあきあきした。
深夜、歩く人も居なくなり、足跡が消える程の雪が道に積もっている。
古ぼけた窓辺に一本の線香を焚(た)き、静かに坐禅をしよう。
音一つしない静謐(せいひつ)な周りの佇(たたず)まいと作者の最後に辿り着いた明鏡止水(めいきょうしすい)の心境が読む者に伝わってきます。
彼の書、良く知られているのは、「天上大風」(てんじょうおおかぜ)です。
小料理や酒席の店に写しが飾られているのをみます。勿論、大きな字も良いのですが、小さな字体の書に彼の魅力が凝縮されています。
余分なものを全て削(そ)ぎ落とした字体、微妙なずれと揺れ、ゆったりとしたなかに見られる緊張感、ここまで辿(たど)り着くには、どうしたら良いのでしょうか。
熊谷守一(くまがい・もりかず)や中川一政(なかがわ・かずまさ)の書にも同じ雰囲気を感じます。
今という時代、パソコンで書く文章からは、“書は人なり 人は書なり”は、当然ながら、伝わってきません。
コンピュータで印字された原稿に手を入れる時、昔同じような作業をしていた頃を思い出します。隔世の感があります。
今週の花材は、両室で対照的で、執務室は旅立ち、秘書室は見送りの様(よう)です。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
今週の花
【理事長室】
■カクレミノ ウコギ科/常緑高木/《名前の由来》葉の形
が蓑(昔の雨具)に似ていることから / 深い切れ込みの入っ
た葉で、成木になると切れ込みのない葉が出る。花期は梅雨
〜夏で黄緑色の小花が咲く。 花後に緑色の実をつけ冬に黒
熟する。
■トルコギキョウ リンドウ科/多年草/アメリカ原産で、当
初は紫色の一重咲のみ。 1970年代以降に多彩な花色や花
形が楽しめるようになる。現在出回っている大半が日本産。
ピンク「NFティアラピンクエクセレント」。NF(ナカソネフリンジ)
シリーズは大輪八重フリンジ咲。
グリーン「アンバーダブルモヒート」。アンバーシリーズは花弁
が硬く丈夫で、 「モヒート」は同じグリーン系の中でも一番フリ
ンジが強い。
■スカビオサ マツムシソウ科/一年草・多年草/別名
「西洋マツムシソウ」。ヨーロッパを中心に約80種。日本に自
生する松虫草に比べ、花が大きくこんもりとして花色も豊富。
■アンスリュウム〔みどり〕 サトイモ科/常緑多年草/花
弁のように見える部分は苞で、中心の棒状の部分が花序。
主に苞を鑑賞するため、非常に長く楽しめる。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/4081.jpg
■カクレミノ ウコギ科/常緑高木/《名前の由来》葉の形
が蓑(昔の雨具)に似ていることから / 深い切れ込みの入っ
た葉で、成木になると切れ込みのない葉が出る。花期は梅雨
〜夏で黄緑色の小花が咲く。 花後に緑色の実をつけ冬に黒
熟する。
■トルコギキョウ リンドウ科/多年草/アメリカ原産で、当
初は紫色の一重咲のみ。 1970年代以降に多彩な花色や花
形が楽しめるようになる。現在出回っている大半が日本産。
ピンク「NFティアラピンクエクセレント」。NF(ナカソネフリンジ)
シリーズは大輪八重フリンジ咲。
グリーン「アンバーダブルモヒート」。アンバーシリーズは花弁
が硬く丈夫で、 「モヒート」は同じグリーン系の中でも一番フリ
ンジが強い。
■スカビオサ マツムシソウ科/一年草・多年草/別名
「西洋マツムシソウ」。ヨーロッパを中心に約80種。日本に自
生する松虫草に比べ、花が大きくこんもりとして花色も豊富。
■アンスリュウム〔みどり〕 サトイモ科/常緑多年草/花
弁のように見える部分は苞で、中心の棒状の部分が花序。
主に苞を鑑賞するため、非常に長く楽しめる。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/4081.jpg
【秘書室】
■パンジー スミレ科/一年草/三色スミレをもとに改良され
た園芸種で、花が大きく色鮮やか。
■カーネーション〔ノビオシリーズ〕 ナデシコ科/多年草/母
の日に贈る花として古くから親しまれる。菊・バラと並び世界的に
生産量の多い主要花。 「ノビオ」 シリーズは紫やボルドーを基調
とした覆輪が綺麗な品種。
使用品種「ノビオバーガンディ」「ノビオチェリー」
■スプレー菊〔ガナッシュ〕 キク科/多年草/1本の茎に対し
て放射状にいくつもの花を咲かせる菊。一重、八重咲の他、管咲
(くだざき)やポンポン咲など、花色や花弁の形も様々。
「ガナッシュ」は赤茶系のポンポン咲品種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/4082.jpg
■パンジー スミレ科/一年草/三色スミレをもとに改良され
た園芸種で、花が大きく色鮮やか。
■カーネーション〔ノビオシリーズ〕 ナデシコ科/多年草/母
の日に贈る花として古くから親しまれる。菊・バラと並び世界的に
生産量の多い主要花。 「ノビオ」 シリーズは紫やボルドーを基調
とした覆輪が綺麗な品種。
使用品種「ノビオバーガンディ」「ノビオチェリー」
■スプレー菊〔ガナッシュ〕 キク科/多年草/1本の茎に対し
て放射状にいくつもの花を咲かせる菊。一重、八重咲の他、管咲
(くだざき)やポンポン咲など、花色や花弁の形も様々。
「ガナッシュ」は赤茶系のポンポン咲品種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/4082.jpg