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理事長室からの花だより
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理事長室からの花だより
vol.385 − 写 (うつす) −
秋の夕暮れ、金木犀(キンモクセイ)の香りが漂ってきます。辺(あた)りを見廻すと橙色(だいだいいろ)の花が目に入ります。
月の出は次第に遅くなって、夜更け(よふけ)になっていきます。宵闇(よいやみ)です。
この時季、稲刈りです。刈り終わった刈田(かりた)も目につきます。
昨日こそ早苗とりしか
いつの間に稲葉そよぎて
秋風の吹く
「古今和歌集」 詠み人知らず
早苗とりをしたのはついこの間なのに、いつの間にか稲の葉がそよぐ秋風の季節になってしまったという、嘆惜(たんせき)の歌です。この“時の移ろい”を目にして、人間(ヒト)は今も、古人と同じような感慨を抱きます。
10月、“後の衣更え”(のちの ころもがえ)です。
衣更えで、几帳面(きちょうめん)に和服を変えている己は、洋服でも同じです。気持ちの切り換えが容易く(たやすく)なるからです。
20世紀は“写真の時代”と表現されることがあります。
19世紀前半、人類は写真という映像技術を手に入れました。スチール(still)写真は、一瞬を永遠に切り取って一枚の画面に封じ込めます。その時代は勿論、当時の世情の臭(にお)いまでも次の世代へ伝えてくれます。
映画やビデオといった動く画像では得られない醍醐味(だいごみ)です。
己は、ある時から、旅に出る時のカメラ携行をやめました。写真を撮ることが旅の目的になってしまっている己に気付いたからです。それ以来、弟子がカメラを贈ってくれるまで、写真は鑑賞の対象でした。
最初に惹(ひ)かれたのは土門拳(vol.74)や植田正治(vol.90、324)です。
(vol.74 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=100)
(vol.90 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=116)
(vol.324 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=363)
最近では、米田知子の視点に惹かれます。
(vol.307 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=346)
仕事の合間に、米国の友から贈られたアンセル・アダムスの写真集、決定的な瞬間を捉えたアンリ・カルティエ=ブレッソンの「サン=ラザール駅裏」等の一連の写真、アルフレッド・スティーグリッツの「ターミナル」、偽善と批判を一枚の写真に凝縮したウィジーの「批判者」、日本でも撮影を続けたユージン・スミスの「楽園へのあゆみ」、ヒューマニズムの女性写真家ドロシア・ラングの「移住労働者の母、カリフォルニアにて」などを観ています。
仕事で心が荒ぶっている時、入江泰吉(いりえ・たいきち)の写真に目を通します。
そこには、会津八一が歌い、和辻哲郎や亀井勝一郎が書き残した、懐かしい大和路の風景があるからです。
(vol.241 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=278)
もう二度と目にすることの叶わない、滅びゆく大和路、観る者をその風景に誘い込んでくれます。
己が学生時代から医師に成り立ての時期、休みを見付けては、京都郊外から大和路を歩き廻りました。
(vol.25 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=42)
(vol.336 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=375)
当時、慈光院(じこういん)は、生け垣越しに周囲の田園が一望できました。今、周りは人家で埋めつくされ、当時の眺望は失われてしまいました。
元興寺(がんごうじ)、船若寺(はんにゃじ)、白毫寺(びゃくごうじ)、今はどうなっているのでしょうか。
彼が遺(のこ)してくれた大和路の写真は、日本人の郷愁を、今も尚、掻き立てます。
時代は下がって江戸、鈴木其一(すずき・きいつ)です。
この画家の恐らく最初にして、最後の企画展「KIITSU」が開催されています。
大胆な省略、そして細密な描写は彼だけの画風です。その影響は現代の絵画に今も尚、受け継がれています。
人出が余りないのではと思いましたが、多くの人々が訪れていました。
時代が彼に追い随(つ)いてきたのでしょうか。
残念ながら、彼の代表作の多くが海外に所蔵されています。
只、だからこそ今に伝えられたとも言えます。明治維新の激動がこんなところからも窺(うかが)えます。
今週の花材は、秋日和(あきびより)という趣(おもむき)です。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
月の出は次第に遅くなって、夜更け(よふけ)になっていきます。宵闇(よいやみ)です。
この時季、稲刈りです。刈り終わった刈田(かりた)も目につきます。
昨日こそ早苗とりしか
いつの間に稲葉そよぎて
秋風の吹く
「古今和歌集」 詠み人知らず
早苗とりをしたのはついこの間なのに、いつの間にか稲の葉がそよぐ秋風の季節になってしまったという、嘆惜(たんせき)の歌です。この“時の移ろい”を目にして、人間(ヒト)は今も、古人と同じような感慨を抱きます。
10月、“後の衣更え”(のちの ころもがえ)です。
衣更えで、几帳面(きちょうめん)に和服を変えている己は、洋服でも同じです。気持ちの切り換えが容易く(たやすく)なるからです。
20世紀は“写真の時代”と表現されることがあります。
19世紀前半、人類は写真という映像技術を手に入れました。スチール(still)写真は、一瞬を永遠に切り取って一枚の画面に封じ込めます。その時代は勿論、当時の世情の臭(にお)いまでも次の世代へ伝えてくれます。
映画やビデオといった動く画像では得られない醍醐味(だいごみ)です。
己は、ある時から、旅に出る時のカメラ携行をやめました。写真を撮ることが旅の目的になってしまっている己に気付いたからです。それ以来、弟子がカメラを贈ってくれるまで、写真は鑑賞の対象でした。
最初に惹(ひ)かれたのは土門拳(vol.74)や植田正治(vol.90、324)です。
(vol.74 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=100)
(vol.90 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=116)
(vol.324 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=363)
最近では、米田知子の視点に惹かれます。
(vol.307 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=346)
仕事の合間に、米国の友から贈られたアンセル・アダムスの写真集、決定的な瞬間を捉えたアンリ・カルティエ=ブレッソンの「サン=ラザール駅裏」等の一連の写真、アルフレッド・スティーグリッツの「ターミナル」、偽善と批判を一枚の写真に凝縮したウィジーの「批判者」、日本でも撮影を続けたユージン・スミスの「楽園へのあゆみ」、ヒューマニズムの女性写真家ドロシア・ラングの「移住労働者の母、カリフォルニアにて」などを観ています。
仕事で心が荒ぶっている時、入江泰吉(いりえ・たいきち)の写真に目を通します。
そこには、会津八一が歌い、和辻哲郎や亀井勝一郎が書き残した、懐かしい大和路の風景があるからです。
(vol.241 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=278)
もう二度と目にすることの叶わない、滅びゆく大和路、観る者をその風景に誘い込んでくれます。
己が学生時代から医師に成り立ての時期、休みを見付けては、京都郊外から大和路を歩き廻りました。
(vol.25 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=42)
(vol.336 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=375)
当時、慈光院(じこういん)は、生け垣越しに周囲の田園が一望できました。今、周りは人家で埋めつくされ、当時の眺望は失われてしまいました。
元興寺(がんごうじ)、船若寺(はんにゃじ)、白毫寺(びゃくごうじ)、今はどうなっているのでしょうか。
彼が遺(のこ)してくれた大和路の写真は、日本人の郷愁を、今も尚、掻き立てます。
時代は下がって江戸、鈴木其一(すずき・きいつ)です。
この画家の恐らく最初にして、最後の企画展「KIITSU」が開催されています。
大胆な省略、そして細密な描写は彼だけの画風です。その影響は現代の絵画に今も尚、受け継がれています。
人出が余りないのではと思いましたが、多くの人々が訪れていました。
時代が彼に追い随(つ)いてきたのでしょうか。
残念ながら、彼の代表作の多くが海外に所蔵されています。
只、だからこそ今に伝えられたとも言えます。明治維新の激動がこんなところからも窺(うかが)えます。
今週の花材は、秋日和(あきびより)という趣(おもむき)です。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
今週の花
【理事長室】
■珊瑚水木(サンゴミズキ) ミズキ科/落葉低木/《名前の由
来》冬になると枝が珊瑚のような鮮やかな色に染まることから/白
玉水木(シラタマミズキ)の変種。 花期は初夏で小さな白い花が咲
き、秋に白い実をつける。
■バラ〔クールウォーター〕 バラ科/落葉低木/古くから親し
まれ、世界的に生産量の多い主要花。 花色・花形など多岐にわた
り約2万種を超す。「クールウォーター」は紫のシックな色合い。
■エリンジュウム〔スーパーノバ〕 セリ科/多年草/長く鋭い苞
と松かさのような花が特徴。成長と共に青みを帯びる。 非常に花持
ちが良く、ドライフラワーにも適す。
■カトレア〔カリビアンスカイ〕 ラン科/《名前の由来》着生蘭の
栽培に初めて成功した園芸家キャトレイの名から/“洋ランの女王”
と呼ばれ、1つの花が大きく色鮮やかで華やかな花姿。 品種ごとに
開花時期が異なり、通年流通する。 「カリビアンスカイ」は淡い紫色
で小ぶりな品種。
■ダリア〔ヘブンリーピース〕 キク科/多年草/世界に3万種以
上あり、品種がとても豊富。一重咲・八重咲の他、花弁が尖ったオー
キッド咲に花弁が波打つピオニー咲、 ピンポン菊のようなボール咲
などもある。
■ポリシャス ウコギ科/常緑低高木/アジア・アフリカ・オース
トラリア等の熱帯に自生品種により葉形や葉色が異なる。刈込に強
く熱帯地域では垣根にも利用される。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3851.jpg
■珊瑚水木(サンゴミズキ) ミズキ科/落葉低木/《名前の由
来》冬になると枝が珊瑚のような鮮やかな色に染まることから/白
玉水木(シラタマミズキ)の変種。 花期は初夏で小さな白い花が咲
き、秋に白い実をつける。
■バラ〔クールウォーター〕 バラ科/落葉低木/古くから親し
まれ、世界的に生産量の多い主要花。 花色・花形など多岐にわた
り約2万種を超す。「クールウォーター」は紫のシックな色合い。
■エリンジュウム〔スーパーノバ〕 セリ科/多年草/長く鋭い苞
と松かさのような花が特徴。成長と共に青みを帯びる。 非常に花持
ちが良く、ドライフラワーにも適す。
■カトレア〔カリビアンスカイ〕 ラン科/《名前の由来》着生蘭の
栽培に初めて成功した園芸家キャトレイの名から/“洋ランの女王”
と呼ばれ、1つの花が大きく色鮮やかで華やかな花姿。 品種ごとに
開花時期が異なり、通年流通する。 「カリビアンスカイ」は淡い紫色
で小ぶりな品種。
■ダリア〔ヘブンリーピース〕 キク科/多年草/世界に3万種以
上あり、品種がとても豊富。一重咲・八重咲の他、花弁が尖ったオー
キッド咲に花弁が波打つピオニー咲、 ピンポン菊のようなボール咲
などもある。
■ポリシャス ウコギ科/常緑低高木/アジア・アフリカ・オース
トラリア等の熱帯に自生品種により葉形や葉色が異なる。刈込に強
く熱帯地域では垣根にも利用される。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3851.jpg
【秘書室】
■ブルースター〔ピュアブルー〕 ガガイモ科/多年草/ベル
ベットのような独特の質感の花弁をもつ。 名前の通り淡い水色
の5枚の花弁が星のように咲く。水色の他、白やピンクもある。
■ブバルディア〔ロイヤルグリーンサマー〕 アカネ科/常緑
低木/4枚の花弁で十字型に開花する筒状花。枝先に多数の花
を房状に咲かせる。
■アランダ〔ディープブルー〕 ラン科/アラクニスとバンダを
交配した人工種。バンダの花の大きさとアラクニスの花持ちの良
さを持つ。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3852.jpg
■ブルースター〔ピュアブルー〕 ガガイモ科/多年草/ベル
ベットのような独特の質感の花弁をもつ。 名前の通り淡い水色
の5枚の花弁が星のように咲く。水色の他、白やピンクもある。
■ブバルディア〔ロイヤルグリーンサマー〕 アカネ科/常緑
低木/4枚の花弁で十字型に開花する筒状花。枝先に多数の花
を房状に咲かせる。
■アランダ〔ディープブルー〕 ラン科/アラクニスとバンダを
交配した人工種。バンダの花の大きさとアラクニスの花持ちの良
さを持つ。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3852.jpg