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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2016.10.28

vol.388  − 味 (あじわう) −

二十四節気では霜降(そうこう)です。ここ信夫の里では、早朝、駐車している車の窓ガラスが結露(けつろ)しています。只、凍って霜(しも)という状態には未(ま)だなりません。

秋の穏やかな日差しが天地に溢れています。大陸から南下した冷たい空気が日本列島を覆ってきています。
肌に触れる大気が冷気を含んでいて、今が秋と知ります。

         秋冷の瀬音いよいよ響きけり
                           日野草城(ひの・そうじょう)

秋は大気や水が澄んでいるだけでなく、音も良く通ります。いよいよ晩秋です。

周りには、秋薔薇(秋バラ)、デュランタ、ダリア、ケイトウといった西洋の花々が目につきます。
昔、街に溢れていたダリアとケイトウが、一時、目に触れなくなっていました。最近、少し復権してきたのでしょうか、時々目に入ります。昔の情感が一時、甦(よみがえ)ります。

秋の花粉症も到来です。漫(そぞ)ろ歩きでくしゃみが出ることでそれを知ります。

落鮎(おちあゆ)、今の季語です。秋の夜長、鮎の干物が酒の肴(さかな)として絶品です。
鮎の生涯は短く、1年です。
儚(はかな)く、哀れです、が、潔い(いさぎよい)とも言えます。

“障子洗う”も今の季語です。
己の小さかった頃、晩秋のこの時季、どこの家屋でも秋晴れの日曜日、総出での仕事です。水を掛けて、束子(たわし)で擦(こす)って、紙を剥がします。終わった後に真新しい障子紙を貼っていました。
今は死語です。

食の話です。食べ物のことを書くのは、今も尚、躊躇い(ためらい)を覚えます。
         (vol.370 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=411

“季節々々に出廻る海や山の幸を、その時に、その土地の食材とあわせて食する”が、真の贅沢(ぜいたく)です。この歳になり、腑(ふ)に落ちます。

思い入れがある食材の一つに茸(キノコ)があります。
         (vol.336 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=375
         (vol.382 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=423
戦後、父は先祖伝来の骨つぎで家族を養ってくれました。患者さんや知人からもらった茸が食卓にのぼりました。当時、庶民には当たり前の食材でした。

原発事故以来、福島県では、茸を採(と)ることや販売は禁じられています。

茸にまつわる秘話です。
原発事故前、和食で一流の料理人が福島を訪れた時のことです。当時、秋になると朝市で女性達が茸を売っていました。彼は、その品質の良さと値段の安さに驚き、その素晴らしさを興奮気味に話していました。
食材を求めてスーパーマーケットに買い出しに行って、地元の野菜の質の高さに感じ入ってもいました。

今、福島は風評被害の真只中にあります。
苦しい今だからこそ、福島の人々は足元に目をこらし、地元の良さを見つめ直す時です。他県の人々からみたら、地元が気付いていない食の良さがたくさんある筈(はず)です。

己の茸料理は簡単です。炒めて、塩か醤油と少しの酒で味付けする、それだけです。
フランス料理では、オリーブオイルと塩です。レストランで“ソテー”と頼むと、茸の種類は違っても、野趣あふれる料理になります。

もう一つは栗です。和菓子では、栗きんとん、栗蒸羊羹(くりむしようかん)、栗羊羹、洋菓子ではモンブランが出廻ります。栗のスープは今しか味わえません。
栗は茹(ゆ)でたり、焼いて食べることも出来ます。栗ご飯は、今も “おふくろの味”の一つなのでしょうか。

海外で修業中、週末、市場で大きな栗を買い求めました。包丁で固い皮殻に切れ目を入れ、オーブンで焼いて食べます。時々、爆発して跳(は)ねていました。

今、各地のおいしい焼き栗を買い求めるのは容易く(たやすく)ありません。
幼い時の思い出、海外での暮らしといった懐かしさを食材に重ね、御馳走と感じているのかも知れません。

今週の花材は、晩秋の落ち着いた、深閑(しんかん)とした佇(たたず)まいです。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■サザンカ   ツバキ科/常緑高木/日本原産の花で、
晩秋から初冬の花の少ない時期に開花する。 江戸時代か
ら多くの園芸品種が栽培され、現在は約300種。日陰や剪
定に強く、垣根としても利用される。
■OHユリ〔アイスダンサー〕   ユリ科/球根植物/「オリ
エンタルハイブリッド」はヤマユリやサクユリ等の原種をベー
スに育成された品種。 大輪の華やかな花姿と芳しい香りが
特徴。「アイスダンサー」は純白でボリュームがある。
■アルストロメリア〔プリマドンナ〕    ヒガンバナ科/球根
植物/ 《名前の由来》スウェーデンの植物学者アルストレメ
ールの名前から/1本の茎から5〜8本の花茎を伸ばし、そ
れぞれに花を咲かせる。 一つひとつの花はユリを小さくした
ような形で、花弁に斑が入る。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3881.jpg

【秘書室】
■フリーセア〔ティファニー〕   パイナップル科/多年草/熱帯ア
メリカ原産で約250種。常緑で開花期が長く、葉を鑑賞する品種も
ある。花苞は赤や黄色、緑など鮮やかな熱帯らしい色。「ティファニ
ー」は赤と黄色の花苞で小型品種。
■アンスリュウム〔テラ〕   サトイモ科/常緑多年草/ろう細工の
ような光沢があり、造花と見間違うような花。花弁のように見える部
分は苞で、棒状の部分が花。
■ヒペリカム〔マジカルユニバース〕   オトギリソウ科/半常緑低
木/花後の実を楽しむものとして流通。実色は赤ピンク系を中心に
茶や緑、アイボリーなどもある。「マジカルユニバース」は黒実。
■ドラセナ〔コーディラインレッドエッジ〕   リュウゼツラン科/日本
で流通する観葉植物の代表種。以前分類されていたドラセナの名で
流通するが本来は“コルジリネ”。 「レッドエッジ」は細葉で赤色の斑
が入る。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3882.jpg

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