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理事長室からの花だより
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理事長室からの花だより
vol.383 − 訪 (たずねる) −
二十四節気の秋分、これから夜長の季節を迎えます。
秋分の日を挟んだ7日間が“秋彼岸”です。
薄暗くなっていくこの時季の暮れ方(くれかた)、何故か寂寥感(せきりょうかん)を感じます。“秋の暮れ”です。
秋のことを白秋(はくしゅう)とも言います。
これに倣(なら)い、秋の風を白風(はくふう)とも呼びます。これを大和言葉に置き換えると“色なき風”です。
秋雨は、樹々の葉や草、土に降り注ぎ、くぐもった音をたてています。
この音、聴いていて飽きるということがありません。
会津盆地は見渡す限り、田圃(たんぼ)が黄金色に輝いています。
間を流れる用水堀の水は澄み、滔々(とうとう)と流れ、冷たさを増しています。
しずかなるみのりとなりし早稲(わせ)ありて
水路の水の光る夕景
板宮清治(いたみや・せいじ)
農業用の水路の水に映っている空の残照の彩り、米を作っている人々の達成感、実りの秋の穏やかな情景を歌っています。
定められた土地に住み、日々、同じ営みを繰り返している現代の人々にとって、旅は非日常であり、息抜きや気分転換の手段です。
昔の人々にとって、旅は命懸けです。宿や食の保証は何もありません。英語のトラブル(trouble,厄介事(やっかいごと))とトラベル(travel,旅)の語源が同じということは暗示的です。
自発的に旅をした人間に、十二世紀の西行(さいぎょう)が居ます。
只、西行の場合は、彼の出自が旅の宿と安全はかなり保証されていました。何故なら、彼は、佐藤氏の出自で、名門です。佐藤氏とは、中央の“左”衛門尉(さえもんのじょう)の“藤”原(ふじわら)氏です。
この縁を頼ることにより、庶民とは違って、随分と楽な旅になっていた筈です。当時の旅人は、野宿が普通です。
芭蕉は旅に生き、旅に倒れた人です。
彼が自由に旅が出来たのは、江戸時代の体制が平和で、街道や宿駅が整備されていたという背景があったからです。精神の自由の背景には現実の保証があったのです。
街道や宿場、港に就(つ)いては、何度か記しています。
(vol.33 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=53)
(vol.330 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=369)
(vol.331 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=370)
今の様(よう)に、庶民が旅それ自体を楽しめるようになったのは、歌川広重の「東海道五十三次」の浮世絵や十返舎一九(じっぺんしゃいっく)の滑稽本「東海道中膝栗毛」で窺(うかが)われるように、江戸も末期近くになってからです。東海道は、今も昔も、東京と京都の間を結ぶ日本の大動脈で、整備もされていました。
一方、奥州街道は、途方もなく遠くて、長い道と思っていないでしょうか。
事実、芭蕉は、千住(せんじゅ)に立って“前途三千里”と詠嘆しています。能因(のういん)法師が「都をば霞とともに立ちしかど秋風ぞ吹く白河の関」と、西行が「みちのくの奥ゆかしくぞ思ほゆる壷の石文(つぼのいしぶみ)外の浜風」と詠んでいます。そこには、遠い、見知らぬ土地への浪漫が感じられます。
その奥州街道は、江戸千住から宇都宮までは日光街道と実質は重なっています。宇都宮の次の白沢(しらさわ)から白河(しらかわ)を奥州街道と呼んでいたようです。
奥州街道とは、“奥州の道”ではなく、“奥州への道”なのです。
昔、街道は、世の中の営みを支えていた生活道です。例えば、海につながる生命の道とも言うべき「塩の道」です。塩は人類の生活に不可欠です。これについては記しました。
(vol.301 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=338)
我が国では、外国に多い岩塩ではなく、海水から作る海塩が主流です。
塩の道は各地で見られます。戊辰の役の戦いで最後の拠点となった会津若松は内陸の盆地にあります。この会津若松に、瀬戸内塩が新潟から運ばれた道が塩街道です。
今もその名残が街道筋や文化に色濃く残っています。
今週の花材は、秋を代表する芒(ススキ)と菊です。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
秋分の日を挟んだ7日間が“秋彼岸”です。
薄暗くなっていくこの時季の暮れ方(くれかた)、何故か寂寥感(せきりょうかん)を感じます。“秋の暮れ”です。
秋のことを白秋(はくしゅう)とも言います。
これに倣(なら)い、秋の風を白風(はくふう)とも呼びます。これを大和言葉に置き換えると“色なき風”です。
秋雨は、樹々の葉や草、土に降り注ぎ、くぐもった音をたてています。
この音、聴いていて飽きるということがありません。
会津盆地は見渡す限り、田圃(たんぼ)が黄金色に輝いています。
間を流れる用水堀の水は澄み、滔々(とうとう)と流れ、冷たさを増しています。
しずかなるみのりとなりし早稲(わせ)ありて
水路の水の光る夕景
板宮清治(いたみや・せいじ)
農業用の水路の水に映っている空の残照の彩り、米を作っている人々の達成感、実りの秋の穏やかな情景を歌っています。
定められた土地に住み、日々、同じ営みを繰り返している現代の人々にとって、旅は非日常であり、息抜きや気分転換の手段です。
昔の人々にとって、旅は命懸けです。宿や食の保証は何もありません。英語のトラブル(trouble,厄介事(やっかいごと))とトラベル(travel,旅)の語源が同じということは暗示的です。
自発的に旅をした人間に、十二世紀の西行(さいぎょう)が居ます。
只、西行の場合は、彼の出自が旅の宿と安全はかなり保証されていました。何故なら、彼は、佐藤氏の出自で、名門です。佐藤氏とは、中央の“左”衛門尉(さえもんのじょう)の“藤”原(ふじわら)氏です。
この縁を頼ることにより、庶民とは違って、随分と楽な旅になっていた筈です。当時の旅人は、野宿が普通です。
芭蕉は旅に生き、旅に倒れた人です。
彼が自由に旅が出来たのは、江戸時代の体制が平和で、街道や宿駅が整備されていたという背景があったからです。精神の自由の背景には現実の保証があったのです。
街道や宿場、港に就(つ)いては、何度か記しています。
(vol.33 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=53)
(vol.330 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=369)
(vol.331 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=370)
今の様(よう)に、庶民が旅それ自体を楽しめるようになったのは、歌川広重の「東海道五十三次」の浮世絵や十返舎一九(じっぺんしゃいっく)の滑稽本「東海道中膝栗毛」で窺(うかが)われるように、江戸も末期近くになってからです。東海道は、今も昔も、東京と京都の間を結ぶ日本の大動脈で、整備もされていました。
一方、奥州街道は、途方もなく遠くて、長い道と思っていないでしょうか。
事実、芭蕉は、千住(せんじゅ)に立って“前途三千里”と詠嘆しています。能因(のういん)法師が「都をば霞とともに立ちしかど秋風ぞ吹く白河の関」と、西行が「みちのくの奥ゆかしくぞ思ほゆる壷の石文(つぼのいしぶみ)外の浜風」と詠んでいます。そこには、遠い、見知らぬ土地への浪漫が感じられます。
その奥州街道は、江戸千住から宇都宮までは日光街道と実質は重なっています。宇都宮の次の白沢(しらさわ)から白河(しらかわ)を奥州街道と呼んでいたようです。
奥州街道とは、“奥州の道”ではなく、“奥州への道”なのです。
昔、街道は、世の中の営みを支えていた生活道です。例えば、海につながる生命の道とも言うべき「塩の道」です。塩は人類の生活に不可欠です。これについては記しました。
(vol.301 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=338)
我が国では、外国に多い岩塩ではなく、海水から作る海塩が主流です。
塩の道は各地で見られます。戊辰の役の戦いで最後の拠点となった会津若松は内陸の盆地にあります。この会津若松に、瀬戸内塩が新潟から運ばれた道が塩街道です。
今もその名残が街道筋や文化に色濃く残っています。
今週の花材は、秋を代表する芒(ススキ)と菊です。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
今週の花
【理事長室】
■ススキ〔タカノハススキ〕 イネ科/多年草/
一見弱々しく見えるが 非常に生命力の強い植物。
「タカノハススキ」は葉に黄白色の斑が入り、縞模
様になるのが特徴。他に縦に白い斑が入る「シマ
ススキ」や葉の細い「イトススキ」などもある。
■リンドウ〔ファーストラブ〕 リンドウ科/ 多年
草/ 秋の代表花で、 野草として古くから親しまれ
る。 花色は青紫系を中心に、 ピンクや白、複色等
もある。 薬草としても知られ、 根や茎に健胃作用
がある。
■ユリ〔シーラ〕 ユリ科/球根植物/大輪咲き
のオリエンタルハイブリット種のユリ。 「シーラ」は
花弁の縁に向かってピンクが濃くなる花色。 優し
く上品な色でピンク系のユリの中でも人気種。
■ドラセナ〔コーディラインカプチーノ〕
リュウゼツラン科/ 日本で流通する観葉植物の
代表種。 「カプチーノ」は赤黒い葉の縁に白色が
入る。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3831.jpg
■ススキ〔タカノハススキ〕 イネ科/多年草/
一見弱々しく見えるが 非常に生命力の強い植物。
「タカノハススキ」は葉に黄白色の斑が入り、縞模
様になるのが特徴。他に縦に白い斑が入る「シマ
ススキ」や葉の細い「イトススキ」などもある。
■リンドウ〔ファーストラブ〕 リンドウ科/ 多年
草/ 秋の代表花で、 野草として古くから親しまれ
る。 花色は青紫系を中心に、 ピンクや白、複色等
もある。 薬草としても知られ、 根や茎に健胃作用
がある。
■ユリ〔シーラ〕 ユリ科/球根植物/大輪咲き
のオリエンタルハイブリット種のユリ。 「シーラ」は
花弁の縁に向かってピンクが濃くなる花色。 優し
く上品な色でピンク系のユリの中でも人気種。
■ドラセナ〔コーディラインカプチーノ〕
リュウゼツラン科/ 日本で流通する観葉植物の
代表種。 「カプチーノ」は赤黒い葉の縁に白色が
入る。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3831.jpg
【秘書室】
■菊〔アナスタシア〕 キク科/多年草/花弁が花火のように広がっ
た大きな菊。通常の菊と異なり、細く繊細な花弁が特徴。今回は白・ピ
ンク・黄色の3色を使用。
■アンスリュウム〔マキシマ〕 サトイモ科/常緑多年草/造花と見
間違うようなツヤツヤした苞が特徴の南国の花。花は棒状の部分で、
主にハート型の苞を鑑賞するため非常に長く楽しめる。「マキシマ」は
白地に先端がピンクの複色。
■藤袴(フジバカマ) キク科/多年草/花期は8〜9月頃で5mm
程の小さな花を房状に多数咲かせる。 本来は河原などに群生する強
健な植物だが、野生種は絶滅危惧種。花後はタンポポのように綿毛の
ついた種を風によって運ぶ。
■クルクマ〔エメラルドパゴダ〕 ショウガ科/球根植物/幾重にも
重なり花弁のように見える部分は苞で、その中に小さな花が咲く。花自
体は目立たず、主に苞を鑑賞する。
■ポリシャス ウコギ科/常緑低高木/アジア、アフリカ、オースト
ラリア等の熱帯に約100種が自生。品種によって葉形や色が異なる。
刈込に強く、熱帯地方では垣根にも利用される。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3832.jpg
■菊〔アナスタシア〕 キク科/多年草/花弁が花火のように広がっ
た大きな菊。通常の菊と異なり、細く繊細な花弁が特徴。今回は白・ピ
ンク・黄色の3色を使用。
■アンスリュウム〔マキシマ〕 サトイモ科/常緑多年草/造花と見
間違うようなツヤツヤした苞が特徴の南国の花。花は棒状の部分で、
主にハート型の苞を鑑賞するため非常に長く楽しめる。「マキシマ」は
白地に先端がピンクの複色。
■藤袴(フジバカマ) キク科/多年草/花期は8〜9月頃で5mm
程の小さな花を房状に多数咲かせる。 本来は河原などに群生する強
健な植物だが、野生種は絶滅危惧種。花後はタンポポのように綿毛の
ついた種を風によって運ぶ。
■クルクマ〔エメラルドパゴダ〕 ショウガ科/球根植物/幾重にも
重なり花弁のように見える部分は苞で、その中に小さな花が咲く。花自
体は目立たず、主に苞を鑑賞する。
■ポリシャス ウコギ科/常緑低高木/アジア、アフリカ、オースト
ラリア等の熱帯に約100種が自生。品種によって葉形や色が異なる。
刈込に強く、熱帯地方では垣根にも利用される。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3832.jpg