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理事長室からの花だより
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理事長室からの花だより
vol.407 − 守 (まもる) −
自然が創り出す芸術、昼の霞(かすみ)や夜の朧(おぼろ)が巡ってきました。
寒緋桜(カンヒザクラ)が咲き、人々の心を浮き立たせます。沈丁花(ジンチョウゲ)も香りを周りに漂わせ、春を待つ人間(ヒト)の心を搔き立てます。
田舎で育った己には、この時季、芹(セリ)、蓬(ヨモギ)、土筆(ツクシ)を田圃(たんぼ)や土手で摘草(つみくさ)をしたのが微(かす)かな記憶として残っています。
“何を見ても何かを思い出す”(ヘミングウェイ)。
帰宅後、着物に着替えて、足袋(たび)を履きます。
この時季は、長襦袢(ながじゅばん)や肌襦袢(はだじゅばん)を重ね着します。
和服と洋服に文化の違いが窺(うかが)えます。
和服は、洋服とは違って、色の対比を大切にしています。十二単衣(じゅうにひとえ)がその代表です。重ね着、帯と着物、色の対比で美しさを際立たせます。
一方、洋服は、小物を含めて、同系統の色で揃えて映(は)えるように装(よそお)います。
着物は世代を越えて繫(つな)いでいきます。人から人へ、今の世代から次の世代へ、長着(ながぎ)は前掛けや袋物に、といった具合にです。
着物の“生涯”に、“再生”が見て取れます。“形見分け”もそこから派生しているのでは…。
“着物に魂(たましい)を吹き込む”といった趣(おもむき)です。
一方、洋服は和服と比べると、遙かに寿命は短く、普通は、10年着ていれば良いほうではないでしょうか。
和と洋の対比は伝統芸能にもみられます。
例えば、能です。
能の演目は若い男女の物語で構成されているわけではありません。能の主人公が老人である事は記しました。 (vol.389 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=430)
日本人は“老い”や“古さ”に美をみています。使い込んだ茶碗に見る美しさは、その代表です。
一方、キリスト教圏に代表される美は“若さ”であり、そこに“永遠”をみているようです。ギリシャ彫刻はその典型です。再生と永遠との違いと言い換えることもできるかも知れません。
歌舞伎や新国劇(しんこくげき)では、男性が女性を演じます。
宝塚歌劇では、女性が男性を演じます。それが、より男らしさ、女らしさを強調する結果になっています。
一方、キリスト教では異性装(いせいそう)を戒(いまし)めています。
我が国の思想の根底には、“森羅万象(しんらばんしょう)すべてに神が宿る”という日本の精神が息衝いて(いきづいて)います。多神教(アニミズム・たしんきょう)と一神教(いっしんきょう)の違いです。
“和”と言えば、炭が手に入り難くなった事が気になります。
エネルギー源の劇的な変化、それに伴う炭を焼く職人の減少、クヌギやコナラなどから成る雑木林(ぞうきばやし)の荒廃が背景にあります。雑木林は、つい最近まで里山(さとやま)として暮らしとともにありました。そこには、“美しき日本”の一面もありました。
雑木林の美しさは、四季の変化だけではありません。15年から20年毎に伐採更新(ばっさいこうしん)が訪れます。春になると伐採された木々の切り口の脇から多数の枝葉が萌え出し(もえだし)ます。
雑木林には1年で循環する四季、そして10年から20年で巡る伐採更新という2つの時間軸があります。
我々人間はもとより、そこに住む生物達にも豊かな環境を提供してくれていたのが雑木林です。
今、それが崩れつつあります。
福島県石川町が過疎地域に指定されたと新聞に載っていました。
石川町は、己が育った町です。今、当時の賑わいが、残響として心に甦(よみがえ)ってきます。
こうして、“人生はすべてこの絶えざる嘆惜(たんせき)のうちに過ぎてゆく” (王義之(おう・ぎし))のです。
今週の花材は、両室とも、花の温(ぬく)もりを感じさせてくれます。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
寒緋桜(カンヒザクラ)が咲き、人々の心を浮き立たせます。沈丁花(ジンチョウゲ)も香りを周りに漂わせ、春を待つ人間(ヒト)の心を搔き立てます。
田舎で育った己には、この時季、芹(セリ)、蓬(ヨモギ)、土筆(ツクシ)を田圃(たんぼ)や土手で摘草(つみくさ)をしたのが微(かす)かな記憶として残っています。
“何を見ても何かを思い出す”(ヘミングウェイ)。
帰宅後、着物に着替えて、足袋(たび)を履きます。
この時季は、長襦袢(ながじゅばん)や肌襦袢(はだじゅばん)を重ね着します。
和服と洋服に文化の違いが窺(うかが)えます。
和服は、洋服とは違って、色の対比を大切にしています。十二単衣(じゅうにひとえ)がその代表です。重ね着、帯と着物、色の対比で美しさを際立たせます。
一方、洋服は、小物を含めて、同系統の色で揃えて映(は)えるように装(よそお)います。
着物は世代を越えて繫(つな)いでいきます。人から人へ、今の世代から次の世代へ、長着(ながぎ)は前掛けや袋物に、といった具合にです。
着物の“生涯”に、“再生”が見て取れます。“形見分け”もそこから派生しているのでは…。
“着物に魂(たましい)を吹き込む”といった趣(おもむき)です。
一方、洋服は和服と比べると、遙かに寿命は短く、普通は、10年着ていれば良いほうではないでしょうか。
和と洋の対比は伝統芸能にもみられます。
例えば、能です。
能の演目は若い男女の物語で構成されているわけではありません。能の主人公が老人である事は記しました。 (vol.389 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=430)
日本人は“老い”や“古さ”に美をみています。使い込んだ茶碗に見る美しさは、その代表です。
一方、キリスト教圏に代表される美は“若さ”であり、そこに“永遠”をみているようです。ギリシャ彫刻はその典型です。再生と永遠との違いと言い換えることもできるかも知れません。
歌舞伎や新国劇(しんこくげき)では、男性が女性を演じます。
宝塚歌劇では、女性が男性を演じます。それが、より男らしさ、女らしさを強調する結果になっています。
一方、キリスト教では異性装(いせいそう)を戒(いまし)めています。
我が国の思想の根底には、“森羅万象(しんらばんしょう)すべてに神が宿る”という日本の精神が息衝いて(いきづいて)います。多神教(アニミズム・たしんきょう)と一神教(いっしんきょう)の違いです。
“和”と言えば、炭が手に入り難くなった事が気になります。
エネルギー源の劇的な変化、それに伴う炭を焼く職人の減少、クヌギやコナラなどから成る雑木林(ぞうきばやし)の荒廃が背景にあります。雑木林は、つい最近まで里山(さとやま)として暮らしとともにありました。そこには、“美しき日本”の一面もありました。
雑木林の美しさは、四季の変化だけではありません。15年から20年毎に伐採更新(ばっさいこうしん)が訪れます。春になると伐採された木々の切り口の脇から多数の枝葉が萌え出し(もえだし)ます。
雑木林には1年で循環する四季、そして10年から20年で巡る伐採更新という2つの時間軸があります。
我々人間はもとより、そこに住む生物達にも豊かな環境を提供してくれていたのが雑木林です。
今、それが崩れつつあります。
福島県石川町が過疎地域に指定されたと新聞に載っていました。
石川町は、己が育った町です。今、当時の賑わいが、残響として心に甦(よみがえ)ってきます。
こうして、“人生はすべてこの絶えざる嘆惜(たんせき)のうちに過ぎてゆく” (王義之(おう・ぎし))のです。
今週の花材は、両室とも、花の温(ぬく)もりを感じさせてくれます。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
今週の花
【理事長室】
■ミモザ マメ科/常緑小高木/オーストラ
リア原産で明治時代に渡来。 早春に淡黄色の
花を枝いっぱいに咲かせる。 葉は銀灰色で小
枝にらせん状に付く。 房状に咲く花が明るく華
やかで、庭木としても人気。
■ラナンキュラス キンポウゲ科/球根植
物/ 薄く柔らかい花弁が幾重にも重なるのが
特徴。淡いパステル系からビビッドな色まで花
色が豊富。オレンジ「アマンディトゥルーオレン
ジ」、クリーム「エムクリーム」、ピンク系「カンヌ」
■エピデンドラム ラン科/細く伸びた花茎
の先に小花が密集して咲き、半円形の一つの
花のような姿。小花が次々と開花するので、鑑
賞期間が非常に長い。
■ヒペリカム〔マジカルヴィクトリー〕
オトギリソウ科/半常緑低木/ 花期は初夏で
黄色い小さな花が咲く。主に花後の実を楽しむ
ものとして流通。「マジカルヴィクトリー」は実付
きがよい緑色品種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/4071.jpg
■ミモザ マメ科/常緑小高木/オーストラ
リア原産で明治時代に渡来。 早春に淡黄色の
花を枝いっぱいに咲かせる。 葉は銀灰色で小
枝にらせん状に付く。 房状に咲く花が明るく華
やかで、庭木としても人気。
■ラナンキュラス キンポウゲ科/球根植
物/ 薄く柔らかい花弁が幾重にも重なるのが
特徴。淡いパステル系からビビッドな色まで花
色が豊富。オレンジ「アマンディトゥルーオレン
ジ」、クリーム「エムクリーム」、ピンク系「カンヌ」
■エピデンドラム ラン科/細く伸びた花茎
の先に小花が密集して咲き、半円形の一つの
花のような姿。小花が次々と開花するので、鑑
賞期間が非常に長い。
■ヒペリカム〔マジカルヴィクトリー〕
オトギリソウ科/半常緑低木/ 花期は初夏で
黄色い小さな花が咲く。主に花後の実を楽しむ
ものとして流通。「マジカルヴィクトリー」は実付
きがよい緑色品種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/4071.jpg
【秘書室】
■アンスリュウム〔バーガンディ〕 サトイモ科/常緑多
年草/花弁のように見える部分は苞で、中心の棒状の部
分が花序。主に苞を鑑賞するため、非常に長く楽しめる。
「バーガンディ」は赤黒いシックな色。
■ピンポン菊〔アブロン〕 キク科/多年草/真ん丸に
咲く可愛い菊。日持ちする菊の中でも特に長く楽しめる。
「アブロン」は赤茶色のシックな品種。
■モカラ〔ルビー〕 ラン科/バンダ・アラクニス・アスコ
ケントルムの3種の蘭を交配した人工種。南国らしい赤や
黄色などの鮮やかな花色の品種が豊富。「ルビー」は落ち
着いた赤色。
■ディンゴファーン オーストラリア原産/ふさふさした
濃い緑色の葉を持つ。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/4072.jpg
■アンスリュウム〔バーガンディ〕 サトイモ科/常緑多
年草/花弁のように見える部分は苞で、中心の棒状の部
分が花序。主に苞を鑑賞するため、非常に長く楽しめる。
「バーガンディ」は赤黒いシックな色。
■ピンポン菊〔アブロン〕 キク科/多年草/真ん丸に
咲く可愛い菊。日持ちする菊の中でも特に長く楽しめる。
「アブロン」は赤茶色のシックな品種。
■モカラ〔ルビー〕 ラン科/バンダ・アラクニス・アスコ
ケントルムの3種の蘭を交配した人工種。南国らしい赤や
黄色などの鮮やかな花色の品種が豊富。「ルビー」は落ち
着いた赤色。
■ディンゴファーン オーストラリア原産/ふさふさした
濃い緑色の葉を持つ。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/4072.jpg