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理事長室からの花だより
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理事長室からの花だより
vol.380 − 澄 (すむ) −
長月(ながつき)、“夜長月”が略された名称のようです。今や、蟲(むし)の声が夜の主役です。夜が長くなってきています。
大気は澄み渡り、天の川が中天にあり、一際(ひときわ)輝く時季です。そして、月を愛でる9月でもあります。
雑木林は、これから最も多彩な美しさをみせる時季です。初秋です。
秋来ぬと目にはさやかに見えねども
風の音にぞ驚かれぬる
藤原敏行(ふじわらのとしゆき)
秋が来ているのをはっきりと目にみえないが、風の音で秋の気配を感じ驚いた、という意味です。
現代語に置き換えると、韻律(いんりつ)も、優美さも失せてしまいます。
余りにも名高いこの歌、元々は、vol.142に引用した詩に触発されて作られたと言われています。
(vol.142 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=175)
何処よりか秋風至る (いずこよりか しょうふういたる)
蕭蕭として雁群を送る (しょうしょうとして がんぐんをおくる)
朝来庭樹に入るを (ちょうらい ていじゅにいるを)
孤客最も先んじて聞く (こかく もっともさきんじてきく)
劉 禹錫(りゅう・うしゃく)
どこからともなく吹いている秋風、作者は雁(かり)の姿に自らの孤独を重ねています。
早朝、庭の樹々の枝のざわめきに、秋の風を感じている作者の姿、憂(うれ)いを含んでいます。
冷気で澄み渡る自然と悄然(しょうぜん)とした人間が一体となった詩です。
この歌には、和歌に漂う潤いのある抒情(じょじょう)よりも遙かに、人間の孤独の影が色濃く差しています。
“華風”と“和風”の違いを考えると、日本人の美徳に思いが至ります。それは、日本人が古来から持っている、“然りげ無い思い遣り”(さりげないおもいやり)です。大切に守られるべき伝統です。
その良き伝統が、日常の風景から気付かされることがあります。日々、忙(せわ)しなく動き廻っているとつい忘れ勝(が)ちです。
或る日、駅のホームで、降りてくる乗客に何気無く目を遣(や)っていました。
ゴミ袋を持って清掃員の方が降車口に立っています。食べ終わった弁当箱や空き缶を投げ入れていく人々の殆(ほと)んどが、清掃員の方に会釈していくのです。ふわっとした笑顔を添えて。
横断歩道で、手前で止まっている車の運転手さんに、人々が会釈したり手を挙げながら、或いは小走りに渡っていきます。
“こういう仕草に出会うと、ほっとします”と言うタクシーの運転手さんが居ました。
こんな場面に出会(でくわ)したり脳裡(のうり)に思い描くと、波立っているこちらの心も凪(なぎ)に変わります。
外国からの観光客が横断する際の姿と比べるとき、その違いは際立ちます。
然りげ無い仕草には“品”があります。“野暮”とは対極の姿です。
“品”と言えば、その芯の一つを構成している“真の優しさ”は、“真の勁(つよ)さ”の意味するところと似ています。腕力を振るったり声を荒げることが勁さの証(あかし)ではなく、黙々と自らの目標に向かって歩むのが真の勁さです。
男性が女性の荷物を持ってやることやレディファーストを示すことが優しさではありません。言葉や動作よりも、然りげ無い気配りがそこに有るかどうかです。
廊下にゴミが落ちていたら、“それは掃除する人間の仕事だ”と、任せるのでしょうか。自らゴミを拾うことが、他者に対する真の優しさです。
“人間(ヒト)は情(なさけ)の器物(うつわもの)”なのです。他者を思うことは、我が身を思うことに繋がります。
“品”は、“粋”とも少し違います(vol.301)。素朴さと無神経が紙一重のように。
己の目標とする姿勢の一つです。
(vol.301 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=338)
“笑顔と挨拶は只”です(vol.271)。少しの“思い遣り”が世の中を和やかなものにしてくれます。
(vol.271 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=308)
今週の花材は、執務室は去り逝く夏、秘書室は澄んだ秋の空のようです。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
大気は澄み渡り、天の川が中天にあり、一際(ひときわ)輝く時季です。そして、月を愛でる9月でもあります。
雑木林は、これから最も多彩な美しさをみせる時季です。初秋です。
秋来ぬと目にはさやかに見えねども
風の音にぞ驚かれぬる
藤原敏行(ふじわらのとしゆき)
秋が来ているのをはっきりと目にみえないが、風の音で秋の気配を感じ驚いた、という意味です。
現代語に置き換えると、韻律(いんりつ)も、優美さも失せてしまいます。
余りにも名高いこの歌、元々は、vol.142に引用した詩に触発されて作られたと言われています。
(vol.142 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=175)
何処よりか秋風至る (いずこよりか しょうふういたる)
蕭蕭として雁群を送る (しょうしょうとして がんぐんをおくる)
朝来庭樹に入るを (ちょうらい ていじゅにいるを)
孤客最も先んじて聞く (こかく もっともさきんじてきく)
劉 禹錫(りゅう・うしゃく)
どこからともなく吹いている秋風、作者は雁(かり)の姿に自らの孤独を重ねています。
早朝、庭の樹々の枝のざわめきに、秋の風を感じている作者の姿、憂(うれ)いを含んでいます。
冷気で澄み渡る自然と悄然(しょうぜん)とした人間が一体となった詩です。
この歌には、和歌に漂う潤いのある抒情(じょじょう)よりも遙かに、人間の孤独の影が色濃く差しています。
“華風”と“和風”の違いを考えると、日本人の美徳に思いが至ります。それは、日本人が古来から持っている、“然りげ無い思い遣り”(さりげないおもいやり)です。大切に守られるべき伝統です。
その良き伝統が、日常の風景から気付かされることがあります。日々、忙(せわ)しなく動き廻っているとつい忘れ勝(が)ちです。
或る日、駅のホームで、降りてくる乗客に何気無く目を遣(や)っていました。
ゴミ袋を持って清掃員の方が降車口に立っています。食べ終わった弁当箱や空き缶を投げ入れていく人々の殆(ほと)んどが、清掃員の方に会釈していくのです。ふわっとした笑顔を添えて。
横断歩道で、手前で止まっている車の運転手さんに、人々が会釈したり手を挙げながら、或いは小走りに渡っていきます。
“こういう仕草に出会うと、ほっとします”と言うタクシーの運転手さんが居ました。
こんな場面に出会(でくわ)したり脳裡(のうり)に思い描くと、波立っているこちらの心も凪(なぎ)に変わります。
外国からの観光客が横断する際の姿と比べるとき、その違いは際立ちます。
然りげ無い仕草には“品”があります。“野暮”とは対極の姿です。
“品”と言えば、その芯の一つを構成している“真の優しさ”は、“真の勁(つよ)さ”の意味するところと似ています。腕力を振るったり声を荒げることが勁さの証(あかし)ではなく、黙々と自らの目標に向かって歩むのが真の勁さです。
男性が女性の荷物を持ってやることやレディファーストを示すことが優しさではありません。言葉や動作よりも、然りげ無い気配りがそこに有るかどうかです。
廊下にゴミが落ちていたら、“それは掃除する人間の仕事だ”と、任せるのでしょうか。自らゴミを拾うことが、他者に対する真の優しさです。
“人間(ヒト)は情(なさけ)の器物(うつわもの)”なのです。他者を思うことは、我が身を思うことに繋がります。
“品”は、“粋”とも少し違います(vol.301)。素朴さと無神経が紙一重のように。
己の目標とする姿勢の一つです。
(vol.301 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=338)
“笑顔と挨拶は只”です(vol.271)。少しの“思い遣り”が世の中を和やかなものにしてくれます。
(vol.271 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=308)
今週の花材は、執務室は去り逝く夏、秘書室は澄んだ秋の空のようです。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
今週の花
【理事長室】
■パフィオペディラム〔ロビンフッド〕
ラン科/《名前の由来》ギリシャ語の“パフィア”
(ヴィーナス)と“ペディロン”(サンダル)の2語
からで、“ヴィーナスのスリッパ”という意味。
■菊〔フエゴ〕 キク科/多年草/花弁の表
と裏の色が異なる巨大輪品種。1本でも存在感
があり、他にない花色が魅力の菊。
■アゲラタム キク科/多年草/熱帯アメリ
カを中心に30種が分布。花期は初夏〜秋で、
花色は青の他、白やピンク、紫など。アザミに似
た花姿で「カッコウアザミ」の別名を持つ。
■トウガラシ〔フリースドルフ〕 ナス科/一
年草/観賞用のトウガラシの一種。「フリースド
ルフ」はパプリカを小さくしたような実。
■アメリカデマリ〔ディアボロ〕 バラ科/落
葉低木/コデマリの一種で、コデマリに似た淡
いピンクの花が咲く。暗褐色の銅葉が魅力で、
晩秋の紅葉も美しい。
■雪柳〔塗雪柳〕(ヌリユキヤナギ)
バラ科/落葉低木/花期は春で枝いっぱいに
小さな白い花を咲かせる。「塗雪柳」は紅葉した
かのように赤く染めたもの。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3801.jpg
■パフィオペディラム〔ロビンフッド〕
ラン科/《名前の由来》ギリシャ語の“パフィア”
(ヴィーナス)と“ペディロン”(サンダル)の2語
からで、“ヴィーナスのスリッパ”という意味。
■菊〔フエゴ〕 キク科/多年草/花弁の表
と裏の色が異なる巨大輪品種。1本でも存在感
があり、他にない花色が魅力の菊。
■アゲラタム キク科/多年草/熱帯アメリ
カを中心に30種が分布。花期は初夏〜秋で、
花色は青の他、白やピンク、紫など。アザミに似
た花姿で「カッコウアザミ」の別名を持つ。
■トウガラシ〔フリースドルフ〕 ナス科/一
年草/観賞用のトウガラシの一種。「フリースド
ルフ」はパプリカを小さくしたような実。
■アメリカデマリ〔ディアボロ〕 バラ科/落
葉低木/コデマリの一種で、コデマリに似た淡
いピンクの花が咲く。暗褐色の銅葉が魅力で、
晩秋の紅葉も美しい。
■雪柳〔塗雪柳〕(ヌリユキヤナギ)
バラ科/落葉低木/花期は春で枝いっぱいに
小さな白い花を咲かせる。「塗雪柳」は紅葉した
かのように赤く染めたもの。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3801.jpg
【秘書室】
■ハイドランジア ユキノシタ科/落葉低木/日本の紫陽
花を改良した西洋アジサイ。日本原産の紫陽花に比べ、花が
大きく華やか。
■クルクマ ショウガ科/球根植物/幾重にも重なり花弁
のように見える部分は苞で、その中に小さな花が咲く。花自体
は目立たず、主に苞を鑑賞する。
■アンスリュウム サトイモ科/常緑多年草/光沢があり
造花と見間違うような花。花弁のように見えるハート型の部分
は苞で、棒状の部分が花。
■ドラセナ〔サンデリアーナホワイト〕 リュウゼツラン科/
笹のような細長い葉とストライプの斑が特徴。他に黄斑の「サ
ンデリアーナゴールド」や深緑の「サンデリアーナバリケード」
もある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3802.jpg
■ハイドランジア ユキノシタ科/落葉低木/日本の紫陽
花を改良した西洋アジサイ。日本原産の紫陽花に比べ、花が
大きく華やか。
■クルクマ ショウガ科/球根植物/幾重にも重なり花弁
のように見える部分は苞で、その中に小さな花が咲く。花自体
は目立たず、主に苞を鑑賞する。
■アンスリュウム サトイモ科/常緑多年草/光沢があり
造花と見間違うような花。花弁のように見えるハート型の部分
は苞で、棒状の部分が花。
■ドラセナ〔サンデリアーナホワイト〕 リュウゼツラン科/
笹のような細長い葉とストライプの斑が特徴。他に黄斑の「サ
ンデリアーナゴールド」や深緑の「サンデリアーナバリケード」
もある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3802.jpg