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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2016.09.09

vol.381  − 築 (きずく) −

仲秋、旧暦9月9日の重陽(ちょうよう)の節句、菊酒(きくざけ)です。今はこの伝統は廃(すた)れてしまいました。
二十四節気では白露(はくろ)、葉の先にしらつゆが宿ることを言います。

この時季は枝豆が大地の恵みです。
今や、海外でも“edamame”として和食の代表の一つとして知られています。海の幸は秋刀魚(サンマ)です。
だだちゃ豆を肴(さかな)に瓶ビール、軒先での七輪(しちりん)で焼いた秋刀魚、一昔前の庶民の夕べ(ゆうべ)の食卓です。

道端や公園には、木槿(ムクゲ)や芙蓉(フヨウ)が過ぎ行く夏を惜しむ様に咲いています。
残暑のなか桔梗(キキョウ)の青紫が爽やかな雰囲気を醸(かも)し出しています。

         海の紺 巌(いわ)より咲きし桔梗の紺
                                佐野まもる

海の蒼(あお)、桔梗の色と佇(たたず)まい、勁(つよ)さと凛冽(りんれつ)さが詠む者に迫ってきます。

“美しい”モノとか“大切な”コトは、人間(ヒト)に依(よ)ります。
今は高く評価されている美術品や音楽でも、長く、世の中から忘れ去られていたという事は珍しくありません。
“美は「ある」のではなく「見出す」もの”です。
         (vol.363 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=404

例えば、棚田です。
畦(あぜ)がつくる優美な曲線、水が張られた水面が映り込む空、田毎(たごと)の月(vol.273、320)、観る者の心を和ませてくれます。
稲穂が実ると棚田全体が黄金色に染まります。そこに人間が作業に勤(いそ)しんでいる姿、一幅の絵です。
         (vol.273 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=310
         (vol.320 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=359

棚田の美しさが、昔から広く知られていたかと問われれば、そうとは言えません。今、人々は、それを築き上げた先人達の営々とした勤(いそ)しむ姿を棚田に重ねて、そこに美しさを感じ、共感を寄せているのです。
棚田は自然と人間(ヒト)の合作による美しさなのです。

己の小さかった時の田圃(たんぼ)では、蛙の鳴き声、メダカの姿、夜の蛍を当たり前のように目にしました。
山河、高台に登ると、重なるように連なっている山並みの遠景、谷間にある川、そこにある手を切るような流れる水の冷たさとせせらぎの音、四季により違った姿をみせる雑木林の美しさも然(しか)りです。
今、山河の風景が荒廃しつつあります。
農業を営む人々の減少や経済合理性だけで失って良いものか、我々に突き付けられた問いが重く迫ります。

これらの風景が目の前にあって当たり前だった時代、その掛け替えの無さに人間(ヒト)は気付きません。
失って初めてその大切さに気付くのです。それは人間でも同じです。

大切なコトやモノも同じです。
自分の誕生日や親の命日は、他人には関心の外でも、その人間にとっては大切な日です。

社会人になって得た最初の給料は、本人にとっても記念すべきコトでありモノです。その給料で買った、子から親への贈り物は、それがどんなに安い、粗末なモノであっても、親にとっては掛け替えのない一生の宝です。

己にも似た経験が有ります。
当時、卒業後に所属した講座は、自治会と称する組織が運営していました。その自治会から“無給医局員”として、“給料”4万円を、包装も明細書もないまま渡されました。日曜日にそれを母の元へ届けました。後年、母が亡くなった時、遺品のなかからその4万円が出てきました。

ここで思い浮かべるのは、一人ひとりの思いです。少し大袈裟(おおげさ)に言えば、人間の価値観です。
他者が、ある人間が自分に持っている関心の十分の一でも関心を持ってやれば、随分、世情は穏(おだ)やかになる筈(はず)です。

互いに相手を信頼して、相手の価値観や人生観に敬意を払うことが仕事の基本です。それにより相手から学び、自らを磨くことができます。

今週の花材は、セピア色の夕陽を連想させます。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■ピンクッション〔ソレイユ〕    ヤマモガシ科
/常緑低木/独特の花姿と南国らしい色合い
が特徴の個性的な花。 待ち針のように見える
ひとつひとつが雄しべ。 「ソレイユ」は明るいオ
レンジ色。
■菊〔マグナ〕   キク科/多年草/ダリアの
ように見えるデコラ咲きの菊。 「マグナ」はシッ
クな赤茶色。
■ケイトウ〔ボンベイケイトウ〕   ヒユ科/一
年草/花期は6〜9月頃で、赤やピンク、オレ
ンジ等の花穂をつける。「ボンベイケイトウ」は
花穂が扇状になる品種。他に羽のような「ウモ
ウケイトウ」や丸い「久留米ケイトウ」等もある。
■トルコギキョウ〔ボヤージュイエロー〕
リンドウ科/多年草/品種改良が盛んで毎年
多くの新種が出回る。現在流通する大半が日
本で作出された品種。「ボヤージュ」シリーズは
大輪八重咲で花弁にフリルが入る。
■クルクマ〔エメラルドパゴダ〕   ショウガ科
/球根植物/幾重にも重なり花弁のように見
える部分は苞で、その中に小さな花が咲く。花
自体は目立たず、主に苞を鑑賞する。 「エメラ
ルドパゴダ」は爽やかな緑色。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3811.jpg

【秘書室】
■ハイビスカスローゼル〔カクテルレッド〕    アオイ科/非耐寒性常緑
低木/一般的なハイビスカスと異なり、ガクが肥大する食用種。ハイビス
カスティーの原料で、ジャムやソースにも使用される。 花期は秋で、花後
に赤暗色の実をつける。
■ダリア〔みっちゃん〕    キク科/多年草/品種がとても豊富で世界に
3万種以上ある。花の大きさも花径が3cm程〜30cm以上の巨大輪まで
ある。
■アンスリュウム〔チアーズ〕    サトイモ科/常緑多年草/光沢があり
造花と見間違うような花。花弁のように見えるハート型の部分は苞で、棒
状の部分が花。
■藤袴(フジバカマ)    キク科/多年草/花期は8〜9月頃で5mm程
の小さな花を房状に多数咲かせる。本来は河原などに群生する強健な植
物だが、野生種は絶滅危惧種。 花後はタンポポのように綿毛がついた種
を風によって運ぶ。
■クルクマ   (理事長室と同花材)
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3812.jpg

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