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理事長室からの花だより
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理事長室からの花だより
vol.389 − 比 (たぐえる) −
霜月(しもつき)、“粧”(よそおい)の晩秋です。
紅葉への想いには、美しさも然(さ)ることながら、“逝く(行く)秋”、過ぎ去ろうとしている秋、二度と出会わない今という時間、“この秋”を惜しむ愛惜(あいせき)の念が重なっています。
枯葉が舞い落ち、 “秋風索漠” (しゅうふうさくばく)、うら寂しい時季でもあります。
人間(ヒト)はその風景に、盛んであった昔の面影も無く、ひっそりとした今を重ねて、嘆惜(たんせき)のうちに過ぎる我が身を重ねています。
“葉っぱのフレディ −いのちの旅−”(レオ・バスカーリア)で著(あらわ)されているように、落葉は生命(いのち)の循環を示す象徴です。
今は、ゴミとされて、邪魔者扱いです。自然と折り合いながら生きていくという先人の知恵が、“効率”、“健康”
の名の下(もと)に切って捨てられています。
落葉たくけむりの中に身をおきて
近きむかしの師をなつかしむ
一ツ橋美江
今、このようなことをしていると、近所から苦情が出そうです。只、このような中に我が身を置くことも、目まぐるしく過ぎてゆく時の流れに追い付いていない現代の人々には必要です。
晩秋、海、川、池、堀の水に眩(まぶ)しさは消え去り、水面(みなも)は清冽(せいれつ)な表情をみせ、寂しさも仄(ほの)かに漂っています。
こんな景色に見入っていると、幼かった時、或いは学生時代に旅した時に耳にした、“入り合いの鐘”の響きが不意に甦(よみがえ)ります。
夕暮れ時、梵鐘(ぼんしょう)と鐘を撞(つ)く人の影が切り絵のように浮かんでいました。
入り合いの鐘、澄み切った用水路の水面を流れゆく落葉、電灯の下の家族のさんざめき、都会では失ってしまった情景です。
人々は技術の進歩で楽で快適な暮らしを手に入れました。引き替えに、市井(しせい)の人々に寄り添って、四季毎(ごと)に様々な表情をみせてくれていた周りの自然が失われてきたのです。
今を生きる若者が、齢(よわい)を重ねた後、思い出す“心の榾火(ほだび)”は、何でしょうか。昔の人に汽笛が郷愁(きょうしゅう)を呼び起こすように。
豊かになった今、食べ物に晴れ(ハレ)と褻(ケ)の区別がなくなりました。
幼かった頃、病気見舞いの時に御裾分け(おすそわけ)に預かったカステラ、今は普段の食べ物です。
己がカステラに抱いていた憧れも、薄れてしまいました。只、口に含むと当時の情感が甦ってきます。この豊かさは、貧しさやひもじさを経験したから分かることです。
西の彼方の山並に沈む夕陽を見つめていると、悠々たる時の流れを前にした山河の哀しくなる程の美しさ、人間の営みの健気(けなげ)さと儚(はかな)さに思いが至ります。
“老い”、古典芸能である能の登場人物、全て年老いた男女です。そこで我々が観る“老い”を刻んだ姿態(したい)は、“神”です。今、“老い”は醜(みにく)い姿に変貌(へんぼう)してしまっています。
“老い”は本当に醜いことなのでしょうか。
勿論、“過ぎゆく歳月は人間(ヒト)を変える”は真実です。只、過ぎゆく歳月のなかで味わってきた光と影は、身体は衰えても、その人間に勁(つよ)さと優しさをもたらします。
今、多くの人々にとって健康と老いが関心の的です。しかし、歳月は、誰にも平等に、淡々と人間の上を過ぎてゆきます。
年齢に抗(あらが)うことも大切です。しかし、“年相応”もまた大切なのではないでしょうか。
“古い物”の価値は、骨董品やワインだけにあるのではありません。人間にも当て嵌(はま)ります。
今週の花材は、“晩秋”そのものです。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
紅葉への想いには、美しさも然(さ)ることながら、“逝く(行く)秋”、過ぎ去ろうとしている秋、二度と出会わない今という時間、“この秋”を惜しむ愛惜(あいせき)の念が重なっています。
枯葉が舞い落ち、 “秋風索漠” (しゅうふうさくばく)、うら寂しい時季でもあります。
人間(ヒト)はその風景に、盛んであった昔の面影も無く、ひっそりとした今を重ねて、嘆惜(たんせき)のうちに過ぎる我が身を重ねています。
“葉っぱのフレディ −いのちの旅−”(レオ・バスカーリア)で著(あらわ)されているように、落葉は生命(いのち)の循環を示す象徴です。
今は、ゴミとされて、邪魔者扱いです。自然と折り合いながら生きていくという先人の知恵が、“効率”、“健康”
の名の下(もと)に切って捨てられています。
落葉たくけむりの中に身をおきて
近きむかしの師をなつかしむ
一ツ橋美江
今、このようなことをしていると、近所から苦情が出そうです。只、このような中に我が身を置くことも、目まぐるしく過ぎてゆく時の流れに追い付いていない現代の人々には必要です。
晩秋、海、川、池、堀の水に眩(まぶ)しさは消え去り、水面(みなも)は清冽(せいれつ)な表情をみせ、寂しさも仄(ほの)かに漂っています。
こんな景色に見入っていると、幼かった時、或いは学生時代に旅した時に耳にした、“入り合いの鐘”の響きが不意に甦(よみがえ)ります。
夕暮れ時、梵鐘(ぼんしょう)と鐘を撞(つ)く人の影が切り絵のように浮かんでいました。
入り合いの鐘、澄み切った用水路の水面を流れゆく落葉、電灯の下の家族のさんざめき、都会では失ってしまった情景です。
人々は技術の進歩で楽で快適な暮らしを手に入れました。引き替えに、市井(しせい)の人々に寄り添って、四季毎(ごと)に様々な表情をみせてくれていた周りの自然が失われてきたのです。
今を生きる若者が、齢(よわい)を重ねた後、思い出す“心の榾火(ほだび)”は、何でしょうか。昔の人に汽笛が郷愁(きょうしゅう)を呼び起こすように。
豊かになった今、食べ物に晴れ(ハレ)と褻(ケ)の区別がなくなりました。
幼かった頃、病気見舞いの時に御裾分け(おすそわけ)に預かったカステラ、今は普段の食べ物です。
己がカステラに抱いていた憧れも、薄れてしまいました。只、口に含むと当時の情感が甦ってきます。この豊かさは、貧しさやひもじさを経験したから分かることです。
西の彼方の山並に沈む夕陽を見つめていると、悠々たる時の流れを前にした山河の哀しくなる程の美しさ、人間の営みの健気(けなげ)さと儚(はかな)さに思いが至ります。
“老い”、古典芸能である能の登場人物、全て年老いた男女です。そこで我々が観る“老い”を刻んだ姿態(したい)は、“神”です。今、“老い”は醜(みにく)い姿に変貌(へんぼう)してしまっています。
“老い”は本当に醜いことなのでしょうか。
勿論、“過ぎゆく歳月は人間(ヒト)を変える”は真実です。只、過ぎゆく歳月のなかで味わってきた光と影は、身体は衰えても、その人間に勁(つよ)さと優しさをもたらします。
今、多くの人々にとって健康と老いが関心の的です。しかし、歳月は、誰にも平等に、淡々と人間の上を過ぎてゆきます。
年齢に抗(あらが)うことも大切です。しかし、“年相応”もまた大切なのではないでしょうか。
“古い物”の価値は、骨董品やワインだけにあるのではありません。人間にも当て嵌(はま)ります。
今週の花材は、“晩秋”そのものです。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
今週の花
【理事長室】
■珊瑚水木(サンゴミズキ) ミズキ科/落葉低木/《名前
の由来》冬になると枝が珊瑚のような鮮やかな色に染まるこ
とから/白玉水木(シラタマミズキ)の変種。初夏に白い小さ
な花が咲き、秋に白い実をつける。美しい枝色を楽しむ花材。
■紅(ベニ)ヒマ トウダイグサ科/多年草/別名「赤トウ
ゴマ」と呼ばれ、トウゴマの一種で若芽や葉などが赤味を帯
びる。 枝色と掌状の銅葉のコントラストが魅力。種子から採
取される油はヒマシ油と呼ばれ、下剤や潤滑油として利用さ
れる。
■菊〔ディスバッドマム〕 キク科/多年草/スプレー菊の
脇芽をかいて、一輪に仕立て大輪に咲かせた菊。咲かせて
から出荷されるため、ボリュームがあり豪華で存在感がある。
■ミナヅキ〔秋色ミナヅキ〕 アジサイ科/落葉低木/《名
前の由来》 旧暦の6月頃に咲くことから“水無月” /7〜9月
に白い花が咲く。「秋色ミナヅキ」は夜間温度が低下すること
で、白からピンク色に染まったもの。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3891.jpg
■珊瑚水木(サンゴミズキ) ミズキ科/落葉低木/《名前
の由来》冬になると枝が珊瑚のような鮮やかな色に染まるこ
とから/白玉水木(シラタマミズキ)の変種。初夏に白い小さ
な花が咲き、秋に白い実をつける。美しい枝色を楽しむ花材。
■紅(ベニ)ヒマ トウダイグサ科/多年草/別名「赤トウ
ゴマ」と呼ばれ、トウゴマの一種で若芽や葉などが赤味を帯
びる。 枝色と掌状の銅葉のコントラストが魅力。種子から採
取される油はヒマシ油と呼ばれ、下剤や潤滑油として利用さ
れる。
■菊〔ディスバッドマム〕 キク科/多年草/スプレー菊の
脇芽をかいて、一輪に仕立て大輪に咲かせた菊。咲かせて
から出荷されるため、ボリュームがあり豪華で存在感がある。
■ミナヅキ〔秋色ミナヅキ〕 アジサイ科/落葉低木/《名
前の由来》 旧暦の6月頃に咲くことから“水無月” /7〜9月
に白い花が咲く。「秋色ミナヅキ」は夜間温度が低下すること
で、白からピンク色に染まったもの。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3891.jpg
【秘書室】
■ニカンドラ ナス科/一年草/花期は7〜9月頃でキキョウに似た鐘
状で薄青紫色の花が咲く。実がホオズキに似ていることから「黒ホオズキ」
と呼ばれる。ハエなどが嫌う成分が含まれ、“ハエを追い払う”という意味の
「シューフライ」の名前でも流通。
■アンスリュウム〔ファンタジア〕 サトイモ科/常緑多年草/ろう細工の
ような光沢があり、造花と見間違うような花。 花弁のように見える部分は苞
で、棒状の部分が花。「ファンタジア」は白色で縁にピンクは入る品種。
■カーネーション〔ノビオバーガンディ〕 ナデシコ科/多年草/母の日
に贈る花として長く親しまれる花。菊・バラと並び世界的に生産量の多い主
要花。「ノビオ」シリーズは紫やボルドーを基調とした覆輪が綺麗な品種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3892.jpg
■ニカンドラ ナス科/一年草/花期は7〜9月頃でキキョウに似た鐘
状で薄青紫色の花が咲く。実がホオズキに似ていることから「黒ホオズキ」
と呼ばれる。ハエなどが嫌う成分が含まれ、“ハエを追い払う”という意味の
「シューフライ」の名前でも流通。
■アンスリュウム〔ファンタジア〕 サトイモ科/常緑多年草/ろう細工の
ような光沢があり、造花と見間違うような花。 花弁のように見える部分は苞
で、棒状の部分が花。「ファンタジア」は白色で縁にピンクは入る品種。
■カーネーション〔ノビオバーガンディ〕 ナデシコ科/多年草/母の日
に贈る花として長く親しまれる花。菊・バラと並び世界的に生産量の多い主
要花。「ノビオ」シリーズは紫やボルドーを基調とした覆輪が綺麗な品種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3892.jpg