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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2016.12.02

vol.393  − 換 (かわる) −

今年最後の月です。旧暦12月の異称は、師走(しわす)です。忙(せわ)しない気持ちになります。
海外での感謝祭の影響でしょうか、以前より早くクリスマスツリーやイルミネーションが姿を顕(あら)わしています。

鮮やかな色が残っている紅葉がみられます。冬紅葉(ふゆもみじ)です。
銀杏(イチョウ)の葉も緑、黄、落葉と様々です。

花の少ないこの時季、寒さのなか、山茶花(サザンカ)の白や淡紅色の花が健気(けなげ)に、少しうら悲しい風情(ふぜい)で咲いています。
花の色や形、咲いている環境から、古来、山茶花は日本人の琴線(きんせん)に触れてきた花です。
山茶花に降りかかる時雨(しぐれ)の“山茶花時雨”、山茶花を散らしてしまう雨の“山茶花散らし”といった言葉が今も用いられています。

         冬にいる庭かげにして山茶花の
         はな動かしてゐる小鳥あり
                               中村憲吉

寒空の下、山茶花の咲いている風景を切り取ったこの歌、絵画をみているようです。

1年が去っていきます。“無常”は世の常です。だからこそ、天地にみられる時の移ろいを惜しむ心が、人間(ヒト)に育(はぐく)まれてきたのです。
古来、人間は、変わりゆく世の移ろいのなか、律儀(りちぎ)に巡り来ては、また去っていく天空や山河の移ろいに心を寄せてきました。そうすることにより、無常であることに不安を募(つの)らせる心に折り合いをつけていたのです。

無常の世、人々が古いモノやコトに惹かれるのは“形あるものは潰(つい)えていく”ことを知っているからこそなのです。時を経て、“今も、そこに在る”ことを愛(いと)おしんでいるのです。

戦国から江戸に至る時代の無常は格別です。
儚(はかな)い、苛酷(かこく)な世情、余計なモノを削り切った孤高の精神性を極めた千利休、既成概念を否定した古田織部(ふるた・おりべ)が世に出てきました。

その後、小堀遠州(こぼり・えんしゅう)の有り様が公家、武士、町人に至るまで広く受け入れられました。
戦乱の世が終わったという時代背景も然(さ)る事ながら、彼が打ち出した、誰もが理解出来る平易な華やぎと艶(つや・色気)もその理由の一つです。彼が見せてくれる作風が世間に安心感を与えた筈(はず)です。

彼は歴史上、最初の総合芸術の演出家です。
学生時代、彼の遺(のこ)した茶室、城、庭を何度も見て廻りました。

彼の美の哲学は、よく言われるように「きれいさび」です。
茶室はその典型です。“明るい茶室”です。
電気のなかった時代、“明るさ”は“天からの授(さず)かりもの”であった筈です。大徳寺孤篷庵(だいとくじ こほうあん)の天井は胡粉(ごふん)を塗ってあり、障子を通して入ってくる光が天井にあたり、反射して部屋全体を明るくしています。

南禅寺(なんぜんじ)の八窓席(はっそうのせき)では、窓の数を多くして光を取り込んでいます。
利休の待庵(たいあん)が、昼と夜の区別がつかない程の闇があったであろうと思えるのとは対照的です。

庭では、金地院(こんちいん)、桂離宮(かつらりきゅう)、仙洞御所(せんとうごしょ)などが、彼の作とされています。
大規模で、雄大、明るく、天空に開いているのが特徴です。石畳も、自然石と切り石を組み合わせて、近代的な趣(おもむき)です。
遺愛の茶碗をみても、白い色、均整のとれた形が目立ちます。

利休、織部が切腹という形で最後を迎えたことを考えると、彼が人生を全う(まっとう)した理由の一端が、時代背景と彼の作風から窺(うかが)い知ることが出来ます。

利休が創った茶の世界が隆盛なのは、夜を昼にする程の今の豊かさ、戦乱の無い平和な時代の底に潜んでいる、激しく移ろっていく世情に、人間(ヒト)の不安な心情を端無く(はしなく)も証(あか)しているのではないでしょうか。

今週の花材は、色の乏しいこの時季、豊かで暖かな色彩が印象的です。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■ミカン〔福みかん〕   ミカン科/常緑低木
/花期は5〜6月頃で10〜11月頃に果実が
橙色に熟す。 もっともポピュラーなものは「温
州(うんしゅう)みかん」。福みかんは可愛らし
い小ぶりな品種。
■グロリオサ〔ニューレッド〕   ユリ科/球根
植物/ 花弁が反り返り、赤く燃える炎のような
花姿。半蔓性の植物で、支柱や他の植物に絡
まって成長する。絡むために葉先が巻きヒゲに
なるのが特徴。
■エリンジュウム〔スーパーノバ〕   セリ科/
多年草/長く鋭い苞と、松かさのような花が特
徴。 成長とともに青みを帯びる。非常に花持ち
が良く、ドライフラワーにも適す。
■ピンポン菊〔アブロン〕    キク科/多年草
/ピンポン玉のように真ん丸に咲く可愛い菊。
花持ちの良い菊の中でも得に長く楽しめる。
■ウラジロモミ   マツ科/常緑高木/《名前
の由来》モミに似た姿で葉裏が白いことから/
自然に円錐形に樹形が整い、クリスマスツリー
などに利用される。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3931.jpg

【秘書室】
■木瓜(ボケ)   バラ科/落葉低木/《名前の由来》中国名の木瓜(モッケ)
から変化して“ボケ”。ウリのような大きな実をつけることから/6月頃に5〜6
cmの実をつけ、果実酒や鎮痛剤の材料となる。丸みを帯びた花が可愛らしく、
庭木や盆栽でも人気。
■ピンポン菊〔セイオペラピンク〕   (理事長室と同花材)
■ヒペリカム〔マジカルピンク〕   オトギリソウ科/半常緑低木/切花では花
後の実を楽しむものとして流通。実色は赤〜ピンク系を中心に緑や茶、白色な
どもある。
■アンスリュウム〔テラ〕   サトイモ科/常緑多年草/ツヤツヤの花(苞)と葉
が特徴の南国の花。 花弁のように見える団扇(うちわ)状の部分は苞で、棒状
の部分が花。
■ヒムロ杉   ヒノキ科/常緑高木/サワラの園芸品種。灰色がかった緑色
の線形の葉が枝に密につく。 葉の柔らかさと葉付きの良さで、 クリスマスリー
スの花材として人気。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3932.jpg

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