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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2016.09.30

vol.384  − 止 (とまる) −

一雨毎(ひとあめごと)に、朝晩の肌寒さを感じます。
早朝、朝霧が楽しめる季節です。

道端に、彼岸花(曼珠沙華(マンジュシャゲ))が咲いています。梵語(ぼんご)で“赤い花”という意味だそうです。
突然に咲き出し、突然に終わる、唐突感のある花です。

         汽車みちのかたへにあかき曼珠沙華
         あかしあかしと見て過ぎにけり
                                尾山篤二郎(おやま・とくじろう)

田圃(たんぼ)の畦道(あぜみち)、土手の法面(のりめん)、線路端に群生して、只只(ただただ)赤く、端正に咲いている様(さま)は、秋風の吹く青空の下、少し寂しげです。

銀杏(イチョウ)の葉が秋の粧(よそお)いになる前、緑が一際(ひときわ)濃く繁っています。
樹々の葉も、秋の粧いに彩(いろどり)を整え始めています。

物想いに耽(ふけ)る秋の夜長、バー(Bar)は恰好(かっこう)な場です。
バー、未(いま)だ己の知らざる“憧れの世界”の一つです。
バーは、老若男女を問わず、現代の戦士にとっては、一時、世俗を逃れて身を置く“心の隠棲(いんせい)の場”です。昼間、様々な挑戦をしたり、受けたりした人々が、夜になって、過去を振り返り、心を鎮める場です。

幕末、横浜の外国居留地に出来たのがバーの嗃矢(こうし)とされています。
元々は、馬をつなぐ為の横木(Bar)が語源です。車の時代になり、それを廃物利用してカウンターの下に置いたのが、いつの間にか、酒場の代名詞になったというのです。ちょっと良い話です。

“心の止まり木”としての酒や酒場の効用は、“世の中、変わることは多いが、変わらないことはもっと多い”コトの一つです。“新しいものには価値があるが、古いもの(コト)にも価値がある”のです。

己はと言えばホテルのバーは、国内外で利用しています。
国内と海外のホテルのバーでは違いがあります。海外は国内より、客の構成や楽しみ方が多様です。国内は少々凝っている人々が集(つど)っているように見えます。

己の憧れのバーは、店としてのバーです。以下、小説や映画からの受け売りです。
我が国のバーは、馴染み客以外の人間には、外観も、心理的にも閉鎖的に映ります。それが、店の雰囲気を保つ大切な鍵の一つになっているのかも知れません。
居心地の良いバーには、長い間に、人々の哀しみ、悩み、ため息、そして愚痴までもが、酒とともに、カウンターやテーブルに染み込んでいる筈です。それが店の“味”になっています。
バーは、“人生の教室”の一つです。そこでは、酒の楽しみ方ばかりでなく、人間を鍛えてくれます。

古い小説に、バーの印象的な場面があります。
“入った時は体温が下がるのが聞こえるほど静か”(レイモンド・チャンドラー、「長いお別れ」)、この文章の意味するところは、酒場には、静謐(せいひつ)であること、店と客との距離感が大切であることを示しています。

己がバーに憧れるようになった切っ掛けは、若い時の経験です。
“知識”として学ぶ為に、ホテルのバーに通っている時です。暮れ方(くれがた)、独(ひと)り、お歳を召された紳士が、カウンターの席に座っていました。仕事が終わり、帰りがけに寄った趣(おもむき)です。端正(たんせい)な服装、静かな佇まい、粋でした。カクテルをさっと飲んで、短時間で出ていきました。

人間(ヒト)が飲んでいる姿を視(み)るのが好きになったのが、この時からです。そこには男としての品性、優しさ、矜持(きょうじ)が滲み出るからです。「謙虚なる姿勢が人間の心を衝(う)つ」ことも学びました。

連れていって下さる人が居ない今、己にとって、バーは「永遠の憧れ」で終わりそうです。

今週の花材、花器とも深まりゆく秋を感じます。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■シンビジュウム   ラン科/胡蝶蘭と並びポピュラ
ーな蘭。寒さに強く洋ランの中でも丈夫で育てやすい。
花持ちが非常に良く、開花後1〜3ヵ月楽しめる。
■ケイトウ〔ボンベイケイトウ〕   ヒユ科/一年草/
花期は6〜9月頃で、赤やピンク、オレンジ等の花穂
を付ける。「ボンベイケイトウ」は花穂が扇状の品種。
他に花穂が羽毛のような「ウモウケイトウ」や球形の
「久留米ケイトウ」などもある。
■クルクマ〔エメラルドチョコゼブラ〕   ショウガ科/
球根植物/ 幾重にも重なり花弁のように見える部分
は苞で、その中に小さな花が咲く。花自体は目立たず
主に苞を鑑賞する。 「チョコゼブラ」は緑と茶の複色で
特に花持ちが良い。
■ヒペリカム〔マジカルユニバース〕
オトギリソウ科/ 半常緑低木/ 花後の実を楽しむも
のとして流通。実色は赤ピンク系を中心に、茶色やクリ
ーム、オレンジ等あり。「マジカルユニバース」は黒色。
■菊    キク科/多年草/中国原産で奈良時代末
から平安時代に渡来。 日本の秋を代表する花で、品
種がとても豊富。「ダンテパープル」濃い紫色のデコラ
咲。「パラドフダーク」シックなオレンジ色のピンポン咲。
■ドラセナ   リュウゼツラン科/日本で流通する観
葉植物の代表種。 「コーディラインカプチーノ」赤黒い
葉の縁に白色が入る。 「コーディラインレッド」赤黒い
葉の縁に赤色が入る。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3841.jpg

【秘書室】
■クルクマ〔オールドローズ〕  (理事長室と同花材)
「オールドローズ」は淡いピンク×茶の落ち着いた花色。
■ヒペリカム〔ココバンブー〕  (理事長室と同花材)
「ココバンブー」は緑色。
■ミスカンサス   ユリ科/多年草/耐寒性・耐陰性が強く
非常に丈夫なグリーン。しなやかさを活かし、束ねたりカール
させたりと色々楽しめる。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3842.jpg

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