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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2011.03.04

vol.115  − 淡雪 −

朝の食事時、障子に目をやると、桟や枠が障子紙の中にかすかに浮かんでくるようになりました。
春を待つこの時季、黄色いフリージアの投げ入れが室内を少し華やかにしてくれます。
早朝の大気も、肌を刺すようなものから少し和らいできています。

三寒四温、古人は季節の動きをよく視て、韻を含んだ美しい表現をしていることを、時々思い知らされます。
一日の寒暖の差が最も激しいこの時季、早朝の出勤時、町屋の屋根、畑、林、遠くの里山、すべて霜で薄化粧しています。山の端に顔が出かかっている太陽は赤黄色く輝いています。この白と赤の対比は、寒さを忘れて、思わず「綺麗ですね」とタクシーの運転手さんとうなずき合ってしまいます。
昼は、暑く感じる程の暖かさです。

今朝は、東京は雨、福島は淡雪です。積もりませんが、道端は白く、道路は濡れています。
  (編集註:福島に名残の雪が積もりました掲載日、3月4日以前の執筆です)

淡雪を歌った詩歌には、儚い(はかない)恋や愛を扱っていることが、古今、多いように思います。
手の平に載ったかと思うと、束の間に溶けて消えてしまうからでしょうか。

         逝く春か君が出で立つ野を染むる桜を葬るか名残雪降る
                                      源朝臣友信
福島盆地にも梅が咲き始めています。
そこに淡雪、“他人の破れ傘”と言われそうですが、瞬時の風情、無常と滅びの美しさを感じてしまいます。

梅の句といえば、蕪村!という人が多いのではないでしょうか。彼の辞世の句も梅です。

         しら梅に明(あく)る夜ばかりとなりにけり
                                      蕪村
彼の句や画は、ほのぼのとした穏やかさと暖かさに包まれているように感じます。
彼に、自分にないものを視るせいでしょうか。この辞世の句も、自らの死期を淡々と受け止めているように響いてきます。

淡雪は、山頭火のような“破滅型”の生き方をした放浪の人にも、心に迷いを生じさせてしまうよう程、妖しいもののようです。

         この道しかない春の雪のふる
                                      山頭火

このところ、文章を書いていても、なかなか素(す)の心になりきれていません。その結果、納得できる文とは言い難いのが正直なところです。文章は誤魔化しがきかないことを改めて知らされます。
「愚直なる継続」を哲学にしている自分としては、休むわけにはいかないので、敢えて(あえて)出します。

今週の花材は、執務室は気品のある緑と黄の対比で、こちらの心を諫めて(いさめて)くれているようです。
秘書室は、真に、春到来です。

(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)

今週の花


【理事長室】
■黄金(オウゴン)テマリシモツケ   バラ科/落葉低
木/原産:北アメリカ/別名「金葉コデマリ」 コデマリに
似た半球状の花が咲くことから/「アメリカテマリシモツ
ケ」の黄金葉をもつ品種。黄金〜ライムグリーンの綺麗
な葉色が特徴。
■サンダーソニア   ユリ科/球根植物/原産:南アフ
リカ/《名前の由来》発見者の“サンダーソン”の名前か
ら/別名「クリスマスベル」 原産地でクリスマスの頃に
咲くことから/細い茎に下向きでベル型の花がいくつも
連なる。ランプを灯したようなオレンジ色の可愛い花姿。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1151.jpg
(無断転載等はご遠慮ください)

【秘書室】
■花桃(ハナモモ)   バラ科/落葉小高木
/原産:中国/果物のモモが実る実桃(ミモ
モ)とは異なり、花を観賞するための園芸品
種。花桃も小さな実がなるが食べられない。雛
祭りの歌にもあり、雛人形とともに飾る花とし
て有名。古く中国では、桃の木には体の中の
悪いものを取り除く力があると考えられ、その
考え方が日本に伝わり、雛祭りに飾るようにな
ったといわれる。
■チューリップ(ストロングゴールド)   ユリ
科/球根植物/原産:地中海沿岸〜中央ア
ジア/公園や学校などの花壇を彩る代表的な
春の花。開花時期や色、花形など多種にわた
り、8000品種以上ある。「ストロングゴール
ド」は黄色の一重咲き。
※拡大写真
(秘書室)
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1152.jpg

■(本学の職員から美しい鉢花が届きました 
: 写真下)
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1153.jpg
(無断転載等はご遠慮ください)

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