海外出張の前には畑一面、馬鈴薯の白い花、帰国してみれば失せていました。
今は、夾竹桃（キョウチクトウ）の赤や紫陽花（アジサイ）の紫が満開です。
花々は、確かな季節の移ろいを教えてくれます。

朝顔とトルコ桔梗（キキョウ）を設（しつら）えて楽しんでいます。
朝顔は一日に一つずつ花を増やして、花の人生（？）をみるようです。

課題への対応、時差ぼけと徒労感が相俟って、梅雨空の細雨（こまあめ）の中、胸の中に鬱屈したものを抱えて、ぼんやりと鉄路の外を眺めていました。
突然、一組の老夫婦が田の草取りを、一瞬の後、別の一組が畑に農薬の撒布をしている光景が眼に入りました。これをみて卒然と目を覚まされました。
二組の老夫婦は、自然に求められるままに、時の移ろいに応じて淡々と求められることをしている！
不覚にも、何故か、突然、自分の胸に熱いものが込み上げてきました。

　　　　　　　　　雨なれば雨をあゆむ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（山頭火）

「努力の目標は結果ではなく、結果を目指すことにある」に思い至りました。
普段は、自らに、そして弟子達に言っていた「プロは結果がすべて」とは逆の視点です。大袈裟に言えば、小さな悟りのようなものを感じました。

“傲慢”な医師、“働かない”公務員、“権威的”な警察官、“金喰い虫”の自衛隊、と叩かれるのが世の常です。
しかし、この大震災、そして原発事故で、これらを職業としている殆どの方々、そして原発事故現場の作業員は、この約４ヵ月、身内の死亡や家屋喪失を顧みず、休日なく働いています。しかも、声高に文句一つ言うこともなくです。
この姿は、鉄路からみた老夫婦の姿とだぶっています。これらの人々に「お疲れ様」、「御苦労様です」、「有り難うございます」の一言は、魔法にかかったような力を彼・彼女等に与えてくれる筈です。

知人の話や新聞から、地域住民の真の自治活動を初めてみた思いがしました。
子供達を守るために、学校の敷地や通学路の除染を、業者ではなく、自らの手で高圧洗浄機を借りてやっているし、あるいは、これからやるというのです。
ここに人間の勁（つよ）さをみました。

　　　　　　　　　得れば即ち高歌し　　失えば即ち休（や）む
　　　　　　　　　多愁多恨　　亦（ま）た悠悠（ゆうゆう）
　　　　　　　　　今朝（こんちょう）　　酒あらば　今朝　酔わん
　　　　　　　　　明日（みょうじつ）　　愁い（うれい）来たらば　　明日　　愁えん
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（羅隠）

今週の花材は、執務室は凜とした華麗さです。いつもながら白と緑の対比に惹かれます。花器との相性もぴったりです。
秘書室は高貴で清楚な紫の表現です。


（福島県立医科大学理事長　菊地臣一）