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理事長室からの花だより

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2011.08.26

vol.137  − 望郷 −

長く福島を留守にして帰宅すると、小さい黄色い蝶が生垣の上を舞って迎えてくれました。
疲れ切った心身に、最高の天からの贈り物を戴いたような気持ちになり、穏やかな心を貰いました。

8月、お盆の月です。
15日の大東亜戦争の終戦(言霊の国ゆえに「敗戦」でないのか)、旧(ふる)くは、23日の戊辰戦争での会津白虎隊の自刃、最近では12日の日航機の墜落事故と、お盆に合わせるようにして、多くの人が命を落とした戦(いくさ)や事件が集中しています。
此岸〔しがん〕(この世)の人々と、彼岸 (あの世)の方々が見えない橋で繋がるのがお盆です。

子供の頃、田舎の町でも子供達が自ら作った灯籠流しが行われ、お盆が終わるとお供え物が菰(こも)で包まれて川に流されていました。これを飛び込み取っていました。今は無くなってしまった情景です。
帰省という慣習もこの時期です。
(vol.44 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=69
(vol.90 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=116
今は、その意義も時代とともに変わりましたが、この時季の風物詩です。

故郷で、あるいは都会で、故郷を歌った歌は数多くあります。誰でも知っている歌を挙げてみます。

         ふるさとは遠きにありて思ふもの
         そして悲しくうたふもの…
                           (室生犀星)

         ふるさとの訛なつかし
         停車場の人ごみの中に
         そを聴きにゆく
                           (石川啄木)

故郷には、哀しみ、喜び、屈辱、怒り、そして別離など、いろいろな想いが詰まっており、それらが名歌を生み出す原動力になっているのでしょう。
若い時、誰でも一度は口ずさむ名歌をつくった若山牧水の誕生日が24日です。石川啄木を看取った友人は彼一人だそうです。

         幾山河越えさり行かば寂しさの
         はてなむ国ぞけふも旅ゆく

朗々たる調べ、甘美な詠嘆など、私にとって彼の歌は今も憧れの存在であり続けています。
プロの評価が低いのは、現代詩がこのような伝統的な調べを失ってしまったからなのか、あるいは違った方向に進んでしまったということなのでしょうか。只、全国に多くの歌碑があるという事実は、如何に多くの国民に支持されているか(いたか)の証(あかし)でしょう。

作曲家の滝廉太郎も24日が誕生日です。
彼の最後のピアノ曲「憾(うらみ)」は、人生の非情さに対する彼の心情を映して、胸に迫るものがあります。

この時季は、名編集者であり警世的随筆家でもあった故 山本夏彦の随筆「『戦前』という時代」を思い出します。その中で「戦後教育では『戦前は真っ暗な時代だった』と教えられている−果たしてそうか?」と、科学者のような視点で先入観の危うさを指摘していました。
彼も、諸井薫も、ともに彼岸に行ってしまいました。

今週の花材は、執務室は秋の到来を告げるような涼やかな佇まいです。
秘書室も温かく人を迎えるような優しさが感じられます。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)

今週の花


【理事長室】
■雲竜柳   ヤナギ科/落葉高木/原産:中国/《名前の
由来》竜が昇っていくような曲線を描くことから/日本でも広
く栽培され、庭木や生け花に利用。
■トルコギキョウ(凛)   リンドウ科/原産:北アメリカ/品
種がとても豊富で、花色、大きさ、咲き方など様々ある。夏の
花で花持ちが良く、祝事仏事ともによく利用。「凛」は大輪の
八重咲き品種で、純白度の高い白色品種。
■アンスリュウム(スノー)   サトイモ科/常緑多年草/
原産:中南米/造花と見間違うような独特の花姿。花弁のよ
うに見える苞を観賞するため、長期間楽しめる。花は苞の中
心にある棒状の部分。「スノー」は名前の通り真っ白な品種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1371.jpg
(無断転載等はご遠慮ください)

【秘書室】
■リンドウ(新踊り子)   リンドウ科/多年草/原産:南アフリカ/
《名前の由来》根が薬になり、竜の胆のように苦いことから(竜胆:りん
どう)。日本の秋を代表する花で、世界に約400種。「新踊り子」はピン
ク色のリンドウ。
■オクラレルカ   アヤメ科/多年草/原産:トルコ/アイリスの一種
で紫色の花が咲く。剣のように先の尖った長い葉が特徴。シャープなラ
インで勢いがあり、生け花などに重宝。切花として葉だけで流通する。
■アンスリュウム(ソナタ)   (理事長室花材紹介をご参照ください)
「ソナタ」はピンク色の品種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1372.jpg
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