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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2012.02.10

vol.160  − 薄暮 −

早朝、何年か振りの圧雪の道路、例年にない強い寒波の為に、路面は凍って交通事故や怪我人が続出です。

関東平野にもまとまった積雪のあった後、東京へ蜻蛉返り(とんぼがえり)で出張しました。
上りの車中、小山駅から大宮駅に掛けて、真に“真白き富士の嶺”が、青空を背景に、まるでズームアップしたように、大きな姿をみせてくれました。
列車の走行に従い、富士の姿形も刻々と変わりました。両脇に連なる山々の高さが、一際、富士の高さと大きさを際立たせています。関東平野の広大な横への拡がりも、富士山を引き立たせるのに一役買っています。
先人達が、富士山に信仰を求め、神と崇(あが)めたのが理解できる一時でした。

列車が荒川を渡って東京へ入ると、地形の起伏(東京は、想像を超える程の起伏の激しさがあります)、ビル、そして霞や気温が相俟(あいま)って、富士山は視界から消えてしまいます。

他日、冬陽の傾く中、東京からの帰路、車窓から富士山が目に飛び込んできました。
今、正に夕陽が富士の裾野に控えている秩父連山の陰に隠れようとしていました。夕陽は黄金色、空は薄い青、そして山は薄紅(うすくれない)に染まっていました。空には、雲片(うんぺん)が螺鈿(らでん)細工の貝のように銀色に輝いていました。
この夕陽のページェントは、4〜5分で終わってしまいました。

         夕焼空  焦(こ)げきはまれる  下にして
         氷(こお)らんとする  湖(うみ)の静けさ
                                    (島木赤彦)

この有名な歌の“湖”を“大地”に置き換えると、歌そのものの情景が眼前に展開していました。

夕陽が落ちてしまうと、空は一気に茜色に染まり、“壮大な静寂”という薄暮が始まりました。
大地は急速に闇に覆われ、それと同時に、地上の灯りが存在感を増していきます。最後は、家々の灯りが、漆黒の闇の中、無数の宝石のように輝き、夜が始まります。
車窓からこの光景をみる度に、一つの灯りに一つの人生があることに思いを馳せてしまいます。
   (vol.50 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=75
   (vol.106 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=134

目の前にある課題、今、判断が求められる事、そして将来に向けての構想の方向付けなど、私のような凡才には手に余る日々が続きます。
ふと気付くとイキ(呼吸)を忘れたり、浅くなっています。そんな時、深呼吸をしながら、雨や波の音を脳裡に浮かべます。執務室では、恥ずかしながら、以前からこれらのCDを手許に置いて、時々流しています。

考えてみると、雨音や波の音は、果たして、世代や民族を越えて人の心を落ち着かせる効果があるのでしょうか。
私だけ、あるいは日本人だけが、波や雨の音に心安らぐのでしょうか。脳の働きが、日本人と西欧の人では違うという指摘もあります。機会をみつけて若い人や海外の友人に聞いてみようかと思っています。

今週の花材は、執務室、秘書室ともに、優しさが伝わってくる“木洩れ日”を連想させてくれます。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)


今週の花


【理事長室】
■フリージア〔ポルトサルート〕   アヤメ科/
球根植物/原産:南アフリカ/《名前の由来》デ
ンマークの植物学者が発見し、親友のフレーゼ
にちなんで/南アフリカケープ地方に原種11種
が生育。甘い香りが特徴の春の花。日本には
明治中期に渡来。「ポルトサルート」は鮮やかな
黄色で大輪咲き。
■ピンポン菊〔マライヤグリーン〕   キク科/
多年草/原産:オランダ/ピンポン玉のように
まん丸に咲く可愛い菊。非常に花持ちが良く、
菊の中でも特に長く観賞できる。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1601.jpg
(無断転載等はご遠慮ください)







【秘書室】
■ヒヤシンス   ユリ科/球根植物/原産:地中
海沿岸/穂状に小花が密集して開花する。香水の
ようなやや強く甘い香りを放つ。水耕栽培でも人気
の球根。
■カラー〔ウェディングマーチ〕   サトイモ科/球
根植物/原産:南アフリカ/江戸時代にオランダか
ら渡来。花びらに見える部分は苞で、その中の棒状
の部分が花。結婚式のブーケによく利用される。
■バラ〔ブルーミルフィーユ〕   バラ科/落葉低木
/原産:アジア〜ヨーロッパ/古くから親しまれ、現
代も人気の高い花。花色、花形など様々で約2万種
ある。「ブルーミルフィーユ」は紫系のクラシカルな花
色。花びらの巻きが多く、“ミルフィーユ”の名の通り
幾重にも重なる。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1602.jpg
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