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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2012.04.13

vol.169  − 春嵐 −

構内の木蓮が今年も大輪の花を咲かせています。

朝陽を浴びた川の浅瀬、鴨達が黒い影になって佇んでいます。
和(やわ)らかい日差し、浅瀬の水音や反射している光のせいか、寒い時季より体を拡げているようです。

先日の春の嵐、やはり天気が荒っぽくなっています。
日本人にとっての雨とは、川合玉堂の「彩雨」、歌川広重の東海道五十三次「庄野 白雨」、そして名所江戸百景「大はしあたけの夕立」に代表されるのではないでしょうか。
四季の変化が、日本人の自然に対する細やかな心象を育(はぐく)んできたとしたら、この先、日本人の心はどうなっていくのでしょう。

夜来の篠突く(しのつく)雨に強風が加わり、目が覚めてしまいました。
久し振りに、屋根を打つ雨音、ザーと響き合う雨音の残響に耳を澄ませ、一時、物思いに耽(ふけ)りました。
“何を見ても何かを思い出す”。雨音は、昔日を呼び起こす共鳴板です。学生時代、下宿の2階で、桟を廻した濡れ縁に座り、瓦を打ちつける雨音を飽かずに聴いていたことを思い出しました。
   (vol.49 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=74
   (vol.126 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=159

ライオネル・ハンプトンの「狂乱の追跡」、昔、散々探して中古のEP盤を手に入れました。映画「危険な曲り角」(1958年)のサウンドトラック盤です。
彼のドラムソロは、リズム感溢れ、今聴いても迫力ある演奏です。アフタービートのリズム感、日本人には出せないといいます。ジャズであれクラシック音楽であれ、日本人の演奏はすぐ分かるのだそうです。
私には、英語の発音もアフタービートに聞こえます。

囲炉裏端で、この曲とフェランテとタイシャーの「脱走のブルース」(1962年)を聴いていると、共に斗(たたか)っている仲間達との先日の宴(うたげ)のさんざめきが聞こえてきました。

         みじかなる焔(ほのほ)燠(おき)よりたちおりて
         このいひ難きいきほひを見ん
                                    (佐藤佐太郎)

大震災に伴って発生した原発事故は、福島の自然と人心をすっかり変えてしまいました。
時に、鬱陶(うっとう)しいと思ってさえいた原発事故以前の日々が、“吹く風枝を鳴らさず”の愛しい日々であったと思い知らされます。自らを顧みて、人の心の当て所(あてど)なさに、我ながら愕然とします。

「人生は切ない」とつくづく感じます。
こんな時だから、然(さ)り気ない他人の優しさ、本、音楽、そして絵の底流にある儚さが身に沁みます。

入学式で多くの若者を迎えることができました。
目の前にある困難を「良い機会」と捉えた勁(つよ)い若者達です。

         鉄は熱いうちに打て(鍛えよ)

ここでは、「好機を逸するな」という意味を採ります。
職業人としての、あるいは修業に専念できる青春は、当時考えているより遥かに短いことが今の私には分かります。人生は、気が付かないうちにプラスの人生からマイナスに転じてしまいます。それを若者に自覚させるのが役目だと思っています。

今週の花材は、執務室はフリージア、秘書室はバラと、紅(赤)が主役です。
春の緑と白に、この赤は一際鮮烈です。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■フリージア〔ロサノバ〕   アヤメ科/球根植
物/原産:南アフリカ/明治中期に渡来。甘い
香りが特徴の春の花。花茎に8〜10輪の花をつ
け、次々と開花する。
■アンスリュウム〔みどり〕   サトイモ科/常
緑多年草/原産:中南米/造花と見間違うよう
な艶々の苞と葉が特徴の南国の花。花びらに見
える部分は苞で、中心の棒状が花。「みどり」は
爽やかなライトグリーンの品種。
■ユーカリ〔プリティハート〕   フトモモ科/常
緑高木/原産:オーストラリア/コアラの食べる
木として知られる。オーストラリアを中心に600
種ほど分布。「プリティハート」はその名の通り、
葉がすべてハート型の可愛い品種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1691.jpg



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【秘書室】
■バラ〔フリーダム〕   バラ科/落葉低木/原産:アジア〜ヨーロッ
パ/古くから親しまれ、現代でも人気の高い花。花色、花形など多岐
にわたり、約2万種を超す。「フリーダム」は大輪咲きの真っ赤なバラ。
開花した姿はとても豪華で、花持ちも良い。
■リューカデンドロン〔サファリサンセット〕   ヤマモガシ科/原産:南
アフリカ/非常に花持ちが良く、ドライフラワーにも適す。花びらのよう
に見える部分は苞葉で、その中に花序がある。「サファリサンセット」は
赤茶色のシックな色が特徴。
■アスチルベ   ユキノシタ科/多年草/原産:東南アジア/ふわふ
わした花穂が特徴。夏期は5〜7月で、梅雨時期の花壇を彩る。花色
はピンクの他、白や赤、紫もある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1692.jpg

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