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理事長室からの花だより
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理事長室からの花だより
vol.176 − 空蝉 (うつせみ) −
瀬音、上手くなった鶯(ウグイス)、そして郭公(カッコウ)の鳴き声が、時差による浅い眠りを覚ましてくれます。
帰国したら、我が国は6月、緑はいよいよ濃く、湿度のせいか、あるいは海外との差で感じるのか、大気が少し重たく感じられます。
6月の色は青でしょうか。花、空、川が、少し湿り気を帯びた大気の中で、青が輝いています。
梅雨に入る前のこの時季、田植えが終わり、水を張って鏡面仕上げのような緑の田圃(たんぼ)の上を吹く風が、爽やかさを心に運んでくれます。
六月を綺麗な風の吹くことよ
(正岡子規)
吹き渡る風は、ときに自然の芸術家になります。
先日、橋を渡っていたら水面が逆風にさらされて、昔の手造りガラスのように表面が波打っていました。
規則正しく、風紋ならぬ水紋を形成して、逆風と夕陽で、水模様は水墨画の趣でした。
この季節を代表する花の一つに沙羅(夏椿)があります。
また立ちかへる水無月の
歎きを誰にかたるべき。
沙羅のみづ枝に花さけば、
かなしき人の目ぞ見ゆる。
(芥川龍之介)
沙羅という言葉の響き、清らかな白、儚い散り際、古来日本人に愛されてきたのが分かるような気がします。
異国の空の下、ホテルの前にある教会の鐘で目が覚めました。庭園のジャスミンの香り、スタッフのきびきびした動き、今、自分が仕事場という戦場を離れていて、異国の空の下にいることを実感します。
夕凪の海岸、松や蘇鉄(ソテツ)の葉のわずかな揺れに風を視(み)、肌でそれを知ります。
早朝、潮騒を聴き、光る海を視ていると、あと何度海外に出掛け、自分の感性に体を委ねることが出来るか考えてしまいます。
若い時、海外へ飛び出して以来、出掛けるたびに、“ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず”を思い知らされます。
ヨーロッパに出掛ける時は、30年以上にわたり必ず立ち寄っていた、パリの小径にひっそりと店を構えていたネクタイ専門店Dが消えていました。
ホテルで調べてもらったら、海外販売だけにしたとのことでした。約30年前、頑固な親爺さんが亡くなってからのデザインの変化、バブル時代の外国資本による買収、いつかこうなると予感していました。
ロンドンの鞄店Tでも同じことを経験しました。ここも突然店がなくなり、名前だけ残して今は海外展開だけです。オーナーが変わり、地元で受け入れられなくなったこと、時代が求めるものに対応できなくなると、このようになってしまいます。
“今まで通りの繁栄を続ける為には、我々は変わらなければならない”はここでも真実です。
わざわざパリに寄る意味は、もうなくなってしまいました。
人生を歩き続けていると、こうして一つずつ、長い間慣れ親しんできた身近なものが消えていきます。
今週の花材は、執務室は華やかな中に淡い儚さを帯びています。
秘書室はそれを労(いたわ)るような優しさを醸し出しています。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
帰国したら、我が国は6月、緑はいよいよ濃く、湿度のせいか、あるいは海外との差で感じるのか、大気が少し重たく感じられます。
6月の色は青でしょうか。花、空、川が、少し湿り気を帯びた大気の中で、青が輝いています。
梅雨に入る前のこの時季、田植えが終わり、水を張って鏡面仕上げのような緑の田圃(たんぼ)の上を吹く風が、爽やかさを心に運んでくれます。
六月を綺麗な風の吹くことよ
(正岡子規)
吹き渡る風は、ときに自然の芸術家になります。
先日、橋を渡っていたら水面が逆風にさらされて、昔の手造りガラスのように表面が波打っていました。
規則正しく、風紋ならぬ水紋を形成して、逆風と夕陽で、水模様は水墨画の趣でした。
この季節を代表する花の一つに沙羅(夏椿)があります。
また立ちかへる水無月の
歎きを誰にかたるべき。
沙羅のみづ枝に花さけば、
かなしき人の目ぞ見ゆる。
(芥川龍之介)
沙羅という言葉の響き、清らかな白、儚い散り際、古来日本人に愛されてきたのが分かるような気がします。
異国の空の下、ホテルの前にある教会の鐘で目が覚めました。庭園のジャスミンの香り、スタッフのきびきびした動き、今、自分が仕事場という戦場を離れていて、異国の空の下にいることを実感します。
夕凪の海岸、松や蘇鉄(ソテツ)の葉のわずかな揺れに風を視(み)、肌でそれを知ります。
早朝、潮騒を聴き、光る海を視ていると、あと何度海外に出掛け、自分の感性に体を委ねることが出来るか考えてしまいます。
若い時、海外へ飛び出して以来、出掛けるたびに、“ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず”を思い知らされます。
ヨーロッパに出掛ける時は、30年以上にわたり必ず立ち寄っていた、パリの小径にひっそりと店を構えていたネクタイ専門店Dが消えていました。
ホテルで調べてもらったら、海外販売だけにしたとのことでした。約30年前、頑固な親爺さんが亡くなってからのデザインの変化、バブル時代の外国資本による買収、いつかこうなると予感していました。
ロンドンの鞄店Tでも同じことを経験しました。ここも突然店がなくなり、名前だけ残して今は海外展開だけです。オーナーが変わり、地元で受け入れられなくなったこと、時代が求めるものに対応できなくなると、このようになってしまいます。
“今まで通りの繁栄を続ける為には、我々は変わらなければならない”はここでも真実です。
わざわざパリに寄る意味は、もうなくなってしまいました。
人生を歩き続けていると、こうして一つずつ、長い間慣れ親しんできた身近なものが消えていきます。
今週の花材は、執務室は華やかな中に淡い儚さを帯びています。
秘書室はそれを労(いたわ)るような優しさを醸し出しています。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)
今週の花
【理事長室】
■スモークツリー〔ピンクファー〕 ウルシ科
/落葉高木/原産:中国〜南ヨーロッパ/別
名「煙の木」「霞の木」煙がモクモクとしている
ような姿が特徴の樹。ふわふわしている部分
は花後に花序が伸びたもの。花自体はあまり
目立たず、花後の姿を鑑賞。
■グロリオサ〔ニューレッド〕 ユリ科/球根
植物/原産:アフリカ・熱帯アジア/《名前の
由来》ラテン語の「栄光」や「見事な」を意味す
る“グラリオラス”から/メラメラと燃える炎のよ
うなユニークな花姿。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1761.jpg
■スモークツリー〔ピンクファー〕 ウルシ科
/落葉高木/原産:中国〜南ヨーロッパ/別
名「煙の木」「霞の木」煙がモクモクとしている
ような姿が特徴の樹。ふわふわしている部分
は花後に花序が伸びたもの。花自体はあまり
目立たず、花後の姿を鑑賞。
■グロリオサ〔ニューレッド〕 ユリ科/球根
植物/原産:アフリカ・熱帯アジア/《名前の
由来》ラテン語の「栄光」や「見事な」を意味す
る“グラリオラス”から/メラメラと燃える炎のよ
うなユニークな花姿。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1761.jpg
【秘書室】
■オンシジュウム〔ハニーエンジェル〕 ラン科/原産:中南
米/無数の蝶が舞い飛ぶような花姿で「バタフライオーキッド」
とも呼ばれる。約400種が熱帯亜熱帯地域に分布する蘭。「ハ
ニーエンジェル」は一般的なオンシジュウムにある斑点のない
綺麗な花色。
■グリーントリュフ ナデシコ科/多年草/原産:ヨーロッパ
東南部/ナデシコの一種で、マリモや芝を想わせる花。ふさふ
さした部分は、花・雄しべ・雌しべが変化したもの。
■ピンポン菊 キク科/多年草/ピンポン玉のようにまん丸
に咲く可愛い菊。花持ちが良い菊の中でも特に長く楽しめる。
■アンスリュウム〔シンバ〕 サトイモ科/常緑多年草/花
弁のように見える部分は苞で、中心の棒状の部分が花。熱帯
原産の花で、暑さに強く長く楽しめる。「シンバ」は白地に縁にグ
リーンが入る品種。
■クロトン トウダイグサ科/常緑低木/肉厚な葉で、葉色・
葉姿が豊富な観葉植物。切葉としても丈夫で、長期間鮮やかな
葉色を楽しめる。沖縄などでは生垣として利用される。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1762.jpg
■オンシジュウム〔ハニーエンジェル〕 ラン科/原産:中南
米/無数の蝶が舞い飛ぶような花姿で「バタフライオーキッド」
とも呼ばれる。約400種が熱帯亜熱帯地域に分布する蘭。「ハ
ニーエンジェル」は一般的なオンシジュウムにある斑点のない
綺麗な花色。
■グリーントリュフ ナデシコ科/多年草/原産:ヨーロッパ
東南部/ナデシコの一種で、マリモや芝を想わせる花。ふさふ
さした部分は、花・雄しべ・雌しべが変化したもの。
■ピンポン菊 キク科/多年草/ピンポン玉のようにまん丸
に咲く可愛い菊。花持ちが良い菊の中でも特に長く楽しめる。
■アンスリュウム〔シンバ〕 サトイモ科/常緑多年草/花
弁のように見える部分は苞で、中心の棒状の部分が花。熱帯
原産の花で、暑さに強く長く楽しめる。「シンバ」は白地に縁にグ
リーンが入る品種。
■クロトン トウダイグサ科/常緑低木/肉厚な葉で、葉色・
葉姿が豊富な観葉植物。切葉としても丈夫で、長期間鮮やかな
葉色を楽しめる。沖縄などでは生垣として利用される。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1762.jpg