枯葉が舞い散っています。
生垣の山茶花（サザンカ）が二輪ほど白い花を咲かせました。

冷え込みが厳しくなると、楽しみの一つが山霧です。
本学は、丘陵の高台にあります。早朝、職場に向かうとき、高台一帯は度々霧の中にあります。
霧の中に身を置く時、心が安らぎます。間もなく、時雨の季節が訪れます。

構内では、黄や紅の葉が常緑樹のなかで華やいでおり、落ち葉が通奏低音を奏でています。
作業員の方々が、落ち葉の清掃に励んでくれています。
落ち葉は、視る人間には“風情”ですが、片付ける側からすれば“厄介者”、“他人の破れ傘”です。

　　　　　　　　　うらさむき今朝の日和に風たちて
　　　　　　　　　欅の枯葉散り騒ぐなり
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　若山牧水

美術館にあったら必ず鑑賞するルオー、彼の生涯のテーマの一つであるサーカスに焦点を当てた展覧会「ジョルジュ・ルオー　　Ｉ　ＬＯＶＥ　ＣＩＲＣＵＳ」に行ってきました。
人生の悲哀、憂愁、そして諦観を感じさせる画風は、自分の心象風景によって慰められたり、あるいは励まされたりします。黒く、太い輪郭線、そして輝くような透明感溢れる色彩で、寂しげな、すべてを受け入れているような道化師やキリストの表情は、みる者に何かを問い掛けています。
「傷ついた道化師」、「踊り子」、「小さな家族」の大作、道化師の哀しみの深さと勇気ある勁（つよ）さが、観る者に迫ります。

「我々は皆道化師」、「道化師（ピエロ）は、決して希望を失わない。希望を持つことによって人生と運命を支配できる」という作者のメッセージは、毎日、悪戦苦闘している私のような平凡な人間に希望を与えてくれます。
絵から醸しだされる澄みきった諦念、しかし、そこには暖かい空気が流れています。その傾向は晩年ほど顕著で、色は明るさを増し、表情にも微笑みがみてとれます。
“人生は面白くもおかしくもないが、その中に希望や喜びを見出していくのが人生”を実感します。

　　　　　散り残りの
　　　　　　　　　散り残りの紅葉が
　　　　　　　　　幽かに舞ってゐる坂道に
　　　　　　　　　存在のたしかさを信じながらも
　　　　　　　　　移ろふ時間がみえ
　　　　　　　　　時間のなかを降りて行きながら
　　　　　　　　　それでもなほ
　　　　　　　　　信じるものがあるとすれば…
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　立原正秋

映画「慕情」の原作になった自伝的小説を執筆したハン・スーインの死去（１１月２日）が新聞で報じられました。
１９５５年の封切りですから、私の世代ではリバイバル上映をみていたのでしょう。田舎者には、ジェニファー・ジョーンズの美しさは異次元でした。この悲恋物語の映画が大ヒットした理由は、筋書も然る事ながら、「Ｌｏｖｅ　 ｉｓ　 ｍａｎｙ　 ｓｐｌｅｎｄｏｒｅｄ 　ｔｈｉｎｇｓ」と歌われる主題歌です。
香港大学を訪問した際に、撮影現場の状況を聞いたところ、今は昔の面影は全くなくなっているそうです。
“世の中にはいつまでも続くものなどない”を実感します。

今週の花材は、執務室は秋の穏やかさ、秘書室は粋を表現しています。


（福島県立医科大学理事長　　菊地臣一）