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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2012.12.28

vol.203  − 憶 (おもう) −

錫色の空、山霧が谷間(たにあい)に漂っています。
雨に濡れた路面、タイヤからの音が通奏低音のように車内まで入り込んできます。

この冬一番の寒さ、構内の中庭を横切る時にふと見上げると、葉を落とした木々の枝に芽生えがみえました。季節は冬真っ只中、しかし、時は連続して、確実に進んでいるのです。
自然、時間、季節、色々な事が頭を過ぎります。

原発事故で避難している方々の仮設住宅の防寒、即刻の対応が必要です。普段、雪が降らない太平洋岸の地域から、雪の降る内陸部への避難だけでも大変なのに、人々の苦労を考えると気が滅入ります。

日曜日の朝、あきらめていた“銀杏(イチョウ)の美”を味わうことができました。
都会の歩道にはイチョウの葉が散り敷かれて、樹々に残っている葉は朝陽を浴びて輝いています。
休日での仕事への自然からの思い掛けない労(いたわ)りです。

時雨(しぐれ)、小春日和(こはるびより)、強い風と、目まぐるしく変わる天気のなか、今年が暮れゆきます。

         ひととせは はかなき夢の心地して
         暮れぬるけふぞ驚かれぬる
                             前律師俊宗

年末になると、喪中の葉書で昔、診療に関わった患者さんが喪(な)くなったことを知ります。
患者さんの死去を知った時、自分に残された時間の長さに思いが及びます。只、誰が亡くなっても、何事もなかったように動いていくのが世情(せじょう)です。だからこそ、亡くなった人をいつまでも心の中に「思い出」として忘れないこと、これが生きている人が亡き人に出来る最大の誠(まこと)なのだと思います。

今、自分は年老いて当時の面影は失せてしまっています。しかし、心の裡(うち)に出てくる患者さんは、当時と変わらずに若く、その時の空気までも蘇らせてくれます。

「あらゆる時代は、過ぎて年を経る程に、現実味を失う」は、一面の真実です。
忘れることができるからこそ人間は、何とか生きていけるのではないでしょうか。

         水を掬(きく)すれば  月  手にあり
         花を弄(ろう)すれば  香  衣に満つ
                              干良史(うりょうし)

歳(とし)を重ねてきて、このように、自然と人間が一体になれれば素晴らしいと思うようになりました。
月が、酌み交わしている酒杯に映り、周囲の景色を銀で掃いたような色に染めてくれれば言うことなしです。
後段は“花泥棒”を連想させてくれます。

来たる年が、一人一人、そして本学にとって静かで、心穏やかに過ごせる1年であることを切に祈っています。

今週の花材は、風に舞う雪を背景に赤の鮮やかさが目につきます。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■スカシユリ〔ランディニ〕   ユリ科/球根植物/
別名「アジアンティックハイブリッド」/《名前の由来》
花びらの先端が広く、付け根部分が細くなり透けるこ
とから/カサブランカ等の大輪ユリに比べ、花が小さ
く香りもない。「ランディニ」は珍しい黒色品種。
■エリンジュウム〔マーキュリー〕   セリ科/多年
草/原産:ヨーロッパ/トゲトゲした松かさのような独
特の花型と青色が魅力。切り花でも長く楽しめ、ドラ
イフラワーにも適す。
■菊〔アナスタシアブロンズ〕   キク科/多年草/
花弁が花火のように広がった大きな菊。細く繊細な
花弁が特徴。
■ドラセナ〔コーディラインレッド〕   リュウゼツラン
科/常緑低木/丈夫で日持ちの良いグリーン。「コ
ーディラインレッド」は赤色葉。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2031.jpg

【秘書室】
■チューリップ〔ベンバンザンテン〕   ユリ科/球根植物/
原産:地中海沿岸〜中央アジア/公園や学校などの花壇を
彩る春の代表花。開花時期や色、花型など多種にわたり、8
000種を超える。「ベンバンザンテン」は赤の一重咲。
■菊〔アナスタシアグリーン〕(理事長室と同花材)
■ヒペリカム〔トゥルーロマンス〕    オトギリソウ科/半常
緑低木/初夏に黄色い花が咲く。主に実を鑑賞するものとし
て流通。花色は赤を中心にピンク、茶、緑等あり。
■ドラセナ〔サンデリアーナ〕   リュウゼツラン科/笹のよう
な細長い葉とストライプの斑が特徴。原産地では4〜5mにも
なる観葉植物。
■ヤツデ〔フクリンヤツデ〕   ウコギ科/常緑低木/深い切
れ込みの入った艶のある大きな葉が特徴。花期は11〜12月
頃で、球状の花序をつけ、翌春に実が熟す。「フクリンヤツデ」
は葉の縁に白い斑が入る品種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2032.jpg

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