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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2013.02.08

vol.208  − 闇 (やみ) −

時間とともに、透明な空の青が色を失っていき、太陽が顔を出します。
太陽を背に、茜色(あかねいろ)に染まっていく雲、少しずつ日の出が早くなっています。

この冬の寒さは格別です。
大地は、この寒さと引き換えに、透明な大気と澄み切った風景を提供してくれます。

夜明け前、道路に積もった雪を掃いている音が外から聞こえてきます。
箒(ほうき)が紡ぎ出す音は、暁方の静寂さを一層際立たせてくれます。

雪の朝、河原は雪に覆われ別の世界をみせてくれます。

         雪積みていさぎよきまで単純となりし河洲の地形輝く
                                       片山新一郎

冬の会津、峠に向かって、山沿いに差し掛かると霧のような細かい雪が降っていました。
山を覆っている杉木立はうっすらと雪をかぶっています。間断なく降る細雪(ささめゆき)は、霧をもたらし、静寂感が辺りを支配しています。さながら横山大観や東山魁夷の世界です。

一転、会津は別な姿もみせてくれます。
見渡す限りの雪原と化している田圃(たんぼ)と墨で描いたような川筋、上空で、鳶(トビ)が地面に焦点を当てて輪を描いて旋回しています。
雲一つない青空を背にしての旋回は、我々人間の小賢(こざか)しい動きを戒めているようです。

久し振りの立て続けの雪、冷気は厳しく、帰宅して部屋の灯をつけても直ぐは明るくならず、心まで寒々しくなります。深夜、仕事の手を休めて外に目を遣ると、静けさが極まる闇(やみ)がそこにあります。

         灯を消してこの雪明り
         たましいの奥なるものをよびさますごと
                              前川佐美雄

ぼんやりと物思いに耽(ふけ)っていると、想い出が庭の闇に溶け込み、庭の音に耳を澄ましています。

先の見えない日々、毎日、次々と課題が顕(あらわ)れてきます。
先の見えないなかでの努力は辛いものです。頑張っている職員に何とか希望の灯(ともしび)が見えるようにと心急(せ)く日々ですが、「日暮れて道遠し」です。木鶏(もっけい)にはなかなかなりきれません。

友から贈られた
         凄まじのいつとき酒をあたためん
は今の自分にとっての燈台です。

一度はみたかった那智瀧図(なちのたきず)、時間をみつけて足を運びました。
ほのかな光の中、広い部屋の中での1点のみの展示でした。展示方法が良く、室内の静寂さが保たれており、心置きなく鑑賞することができました。

元々は華やかな絵画だったのでしょうが、当時の華やかな色彩は失われていました。
しかし、すべての色を削ぎ落とした今の姿が、却ってこの絵のメッセージ性を高めているようにみえました。

アンドレ・マルローが、この絵に永遠性や日本人の自然観や宗教観を読みとったその感性は、今の我々に受け継がれているのだろうかと、鑑賞しながら考えてしまいました。
千住博のウォーターフォールはこの絵にインスピレーションを得て描いたのではないのかなど、妄想が脳裡を過ぎりました。

今週の花材は、執務室は一足早い春を、秘書室は心に温もりを与えてくれます。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■東海桜(トウカイザクラ)   バラ科/落葉
高木/中国原産の「カラミ桜」と日本原産の
「小彼岸」の交配種。薄桃色の一重咲きで甘
い香りを放つ。桜前線のソメイヨシノよりも早く
開花する。しなやかな枝振りと枝いっぱいに花
をつけることから近年人気の品種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2081.jpg

【秘書室】
■ヒヤシンス   ユリ科/球根植物/原産:地中海沿岸/穂状
に小花が密集して開花する。香水のようなやや強く甘い香りを放
つ。理科の授業などでも使用され、水耕栽培でも人気の花。
■モカラ〔カリプソ〕   ラン科/原産:東南アジア/「バンダ」「ア
ラクニス」「アスコケントルム」の3種の蘭を交配した人工種。南国ら
しい濃く鮮やかな色合いの品種が豊富。暑さにも強く、非常に観
賞期間の長い花。「カリプソ」は鮮やかなピンク色。
■テマリ草   ナデシコ科/多年草/原産:ヨーロッパ東南部/
マリモや芝を連想させる花姿。カーネーションと同じナデシコ科で、
茎や葉は同様で花だけ独特。ふさふさした部分は、花・雄しべ・雌
しべが変化したもの。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2082.jpg

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