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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2013.05.10

vol.221  − 視 (みる) −

街路にはエゴノキや馬酔木(アシビ)、田園には桜桃(サクランボ)、林檎(リンゴ)、梨、花桃、白と緑の対比が視る人に爽やかさを運んでくれています。

梅雨に入る前のこの一時期が、我が国を代表する色と音の季節です。
鉄路からみえる見渡す限りの田圃(たんぼ)には水が張られ、周りの木立は様々な緑を纏(まと)い、葉の戦(そよ)ぎに風を視ます。爽やかな風景の中、太陽の光が水面に反射して輝きを放っています。

5月の山野、那須野ヶ原から福島にかけて、散らでの桜が、木立(こだち)の中に、尚、点在しています。
淡い緑を背景とした薄い白、点描画のような風景です。花がほぼ散った後の姿、使い込んだ粉引き(こひき)のような桜の色が、蠢(うごめ)き出した緑と相俟(あいま)って、和(なご)やかな風景をみせてくれています。霞がかっているような景色が、逝く春を実感させてくれます。

         いづれの花か散らで残るべき
         散るゆえによりて、咲く頃あればめづらしきなり

         萎れたると申すこと、花よりもなほ上の事にも申しつべし
                                          世阿弥「風姿花伝書」

散らない花などないのです。散るからこそ咲いたときに美しく感じるのです。
花が咲いた後は、咲いている時よりも萎れた花が美しく感じられます。

これらの言葉は、花の美しさを愛(め)でるときの大切な視点を教えてくれています。人間の生き方を教えてくれているようにも感じられます。
列車の窓から外をみていると、こんな事が脳裡を過ぎり、時が過ぎてゆきます。

100歳にして今尚現役、篠田桃紅の「百の記念展、−篠田桃紅の墨象−」に足を運びました。
彼女が今尚、第一線で活躍していると知り、驚きました。彼女と親交のあると思われるオーナーの美術館での開催は、元々設置されている彼女の作品と相俟(あいま)って、文字通り彼女一色の美術館でした。

都心とは信じられないような閑静な敷地内に、ライムストーンの外壁の建物、落ち着いた雰囲気です。
展示室は地下にあり、アプローチの階段と壁面が、視る人を非日常の世界へと誘(いざな)ってくれます。

篠田桃紅は、我々に書道家を身近に感じさせてくれた草分けです。また、書道家から墨と紙を道具とした芸術家へと変身した人でもあります。作品を通して、墨の表現の豊かさと多様性を世界に広く知らしめてくれました。
無彩色を主体とした作品は、観る人を幽玄、雄大な世界に誘ってくれます。

沖縄へ蜻蛉返り(とんぼがえり)で行ってきました。あいにくの天候でしたが、街路をハイビスカス(?)が飾り、やはり別天地です。この紅、気温、そして湿度が相俟って、“南国”を演出してくれています。

羽田空港の滑走路の草叢(くさむら)、赤紫の野草が一面に咲いていました。ここにも、確かに春の謳歌(おうか)がありました。カタバミの一種でしょうか。飛行機が往き来している側で、ひっそりと群生し、空の旅人の心を癒してくれています。同じ草花が会津の耕作放棄地にも咲いていました。

今週の花材は、色の組合せは異なりますが両部屋とも“典雅”の趣(おもむき)を感じさせてくれます。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



※海外・国内出張が重なるため、次週より「理事長室からの花だより」は休載させていただきます。5月31日(金)より連載を再開する予定です。(今週も休載予定でしたが、急遽の執筆となりました)

今週の花


【理事長室】
■バイカウツギ   ユキノシタ科/落葉低木
/原産:日本/花期は初夏で梅に似た白い花
が咲く。本州から九州の山地に自生し、古くか
ら庭木や生け花で親しまれる。
■ブルーレースフラワー   セリ科/一年草
/原産:オーストラリア/小さな花をたくさんつ
け、5センチほどの半手毬状の花姿。茎や葉
は柔らかい毛に覆われている。他にピンク色
の品種もある。
■アランダ   ラン科/アラクニスとバンダを
交配した人工種。花持ちの良さと他にない紫
色が魅力の蘭。
■ナルコラン   ユリ科/多年草/原産:日
本/葉の縁に白い斑の入った涼しげなグリー
ン。4〜5月頃にスズランのような花が咲く。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2211.jpg

【秘書室】
■サンダーソニア   ユリ科/球根植物/原産:
南アフリカ/細い茎にベル型の小さな花が連なって
咲く。ランプを灯したようなオレンジ色の可愛い花
姿。
■ひまわり〔モネのヒマワリ〕   キク科/一年草
/夏の体表的な花。黄色系の濃淡の他、茶やエン
ジ色等もあり品種が豊富。「モネのヒマワリ」は淡い
レモン色の八重咲き。
■アンスリュウム〔みどり〕   サトイモ科/常緑多
年草/原産:熱帯アメリカ/光沢があり造花と見間
違うような花。花弁のように見える部分は苞で、棒
状の部分が花。
■ドラセナコンシンネ〔レインボー〕   リュウゼツラ
ン科/原産:熱帯アフリカ/縦縞模様の細い葉をも
つドラセナ。他に葉色の違う「ホワイボリー」や「トリ
カラー」もある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2212.jpg

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