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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2013.06.07

vol.223  − 馳 (はせる) −

朝、会議では深刻な討論、外では鶯(ウグイス)が鳴いています。
今、構内の散策路は、エゴノキの花が散り敷かれています。“白い絨毯(じゅうたん)”です。

街路樹では合歓(ネム)の木が緑の中、優しさと少し妖しげな雰囲気を漂わせています。
植え込みには躑躅(ツツジ)やアザミが足元を彩ってくれています。ニセアカシアの白も目立ちます。
そして、紫陽花(アジサイ)の季節へと移っていきます。

広島への出張、鉄路で往き来してみました。
中国地方の低く、なだらかな山並み、嫋(たお)やかさを感じます。

太平洋ベルト地帯の連なる屋並(やな)み、人々の賑わい、声まで聞こえてくるようです。
車窓からは、播磨灘の光る海が遠くにみえました。この穏やかさ、自分の置かれている環境との違いに、“だから良いのだ”という思いと彼我(ひが)の落差の大きさに、一瞬、漠然とした不安を感じました。

戦後、我々の親の世代は、日々の糧(かて)を得るために懸命に努力しました。
我々の世代は、その姿を目の当たりにして育ちました。

一方、生まれた時から豊かさを手にして育っている世代にとっては、これが当たり前なのです。
“時の重さ”を感じます。

医療も同じです。我々の修業時代の難しい手術が、今は研修医の基本手術になっています。
これは、別に今の人々が特に優れているというのではなく、これこそが“時の価値”なのです。

このところの“夜汽車”の日々、過ぎ去りし日々の夜汽車には、若僧に何かを示唆してくれる“人生”がありました。乗客が醸(かも)し出す雰囲気が、生きていくことに必要な何かを若者に教えてくれていました。

通学での鉄路、窓の外には、闇の中に橙(だいだい)色の灯(あかり)が点在していました。
   (vol.50 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=75
   (vol.213 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=250
高い建物は数える程でした。小さな家屋、暗い灯り、人々の存在は目立ちませんでした。

車内の静寂さは昔も今も同じです。只、車内は、蛍光灯の“白い昼間”です。
乗客は、携帯やタブレット端末に目をやり、窓の外に目をやっている人をみかけません。

景色も、昔とは異なってしまいました。
闇の中、ビルの窓に切り取られたスクリーンのような明るい部屋、スポーツクラブでの元気な女性達のエアロビクス、別な階ではプールで水泳をしている人々がいます。別なビルでは、柔道の稽古をしている男達、その隣では鏡に向かってストリートダンスの練習に興じている若い男女がいます。オフィスビルでは、人々がパソコンに向かっています。
走馬灯のように流れていく景色は、“現代の幻燈”です。

車窓の外と内、時間の使い方、人々の関心の有り様、昔とは様変わりです。私のような“古い人間”は、夜汽車で“運命の受け入れ”を学びました。時代が変わったのではなく人々が変わったのです。
   (vol.59 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=85
   (vol.65 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=91
   (vol.96 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=124
   (vol.144 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=177

都会の光芒の眩しさや多様性の裏に潜む闇に思いを馳せてしまいます。

今週の花材は、執務室は沈思を、秘書室は静謐(せいひつ)を表現しています。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■アメリカデマリ〔ディアボロ〕   バラ科/落葉低木/
原産:北アメリカ/コデマリの一種。コデマリに似た淡い
ピンクの花が咲く。今回は花後の赤実の状態を使用。
■スモークツリー〔ホワイトファー〕   ウルシ科/落葉
高木/原産:中国〜南ヨーロッパ/別名「煙の木」「霞の
木」。煙がモクモクとしているような姿が特徴の樹。ふわ
ふわしている部分は花後に花序が伸びたもの。花自体
はあまり目立たず、花後の姿を鑑賞する。
■菊〔ピンポン菊〕   キク科/多年草/ピンポン玉のよ
うに真ん丸に咲く可愛い菊。今回は赤紫色の「ロリポップ
パープル」を使用。
■トルコギキョウ〔ボヤージュアプリコット〕   リンドウ科
/多年草/原産:北アメリカ/花の大きさや咲き方、花
色がとても豊富な夏の花。仏事祝事どちらにも人気があ
る。「ボヤージュ」シリーズはフリル状の花弁が特徴。ボ
リュームがある大輪八重咲品種で華やか。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2231.jpg

【秘書室】
■菊〔アナスタシア〕   キク科/多年草/花
火のように広がる大きな菊。通常の菊と異なり、
細く繊細な花弁が特徴。
■トルコギキョウ〔紺みちる〕理事長室と同花材。
「紺みちる」は濃い紫色の小中輪八重咲品種。
■アンスリュウム〔マウナロア〕   サトイモ科
/常緑多年草/原産:熱帯アメリカ/光沢があ
り造花と見間違うような花。花弁のように見える
部分は苞で、棒状の部分が花。今回の「マウナ
ロア」は25cm以上もある特大サイズ。
■ゲットウ   ショウガ科/常緑多年草/原
産:東南アジア/初夏に白い花が咲き、秋に赤
茶色の実をつける。葉は芳香があり防虫・消臭
効果がある。
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2232.jpg

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