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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2013.07.26

vol.230  − 蘇 (よみがえる) −

夏の日差しの下、高速道路や路傍(みちばた)に、緑の中に合歓(ネム)の木、高々とした凌霄花(ノウゼンカズラ)、一際目立つ庭漆(ニワウルシ)が並んでいます。
木槿(ムクゲ)もあちらこちらで存在を主張しています。

帰宅すると、門扉に小さな蟷螂(カマキリ)がよじ登っていました。自然は着実に歩みを進めています。

一方、強烈な日差しは、人々の目を生命の謳歌(おうか)の裏に潜んでいる翳(かげ)りにも向けさせます。

         かなしみは明るさゆゑにきたりけり
         一本の樹の翳(かげ)らひにけり
                            前 登志夫

慌ただしい日々、“喫茶店”に身を浸したくなり、レコード店(今は死語?)への帰り、老舗(しにせ)を訪れました。
ドアを開けると、店に満ちているコーヒーの香りが体を包んでくれます。独り仕事をしている人、語らっている人々、あるいは読書をしている人、遙かな昔、見慣れていた情景が、残り香のように目の前にありました。
静寂を際立たせる抑えた話し声、時間をかけて入れてくれるコーヒー、昔の儘(まま)です。

英国貴族の書斎を思わせる設(しつら)え、ゆったりとした時間の流れ、そこには過ぎ去った日々の名残が、セピア色の思い出を伴って、残響のように存在していました。

“何を見ても何かを思い出す”…。
汽車通(これも死語?)での帰りに、寄り道して、襟章(えりしょう)をマフラーで隠して入ったジャズ喫茶、全く理解できない哲学書をしかめっ面して読んでいた、学生時代の静かな喫茶店、その時々の感情や雰囲気までもが蘇って来ます。

あの当時、喫茶店は、待ち合わせ、あるいは打合せの場として、生活、あるいは仕事の一部分を担っていました。今それらの役割はどんな所が果たしているのでしょうか…。
昭和は遠くなってしまいました。只、今でもしっかりと古武士のように“喫茶店”は存在しています。しかも、最近は、オーナーの思いが籠もった店が増えています。

海外で運転免許証を取得する時の、今から考えると、顔から火が出るような思い出も蘇りました。
路上での実地試験、試験官は女性でした。彼女の指示にいちいち“Yes sir”と答えて運転していました。彼女は最後まで咎(とが)めませんでした。
煙に燻(いぶ)されたような雰囲気のアンティークな喫茶店は、こんなことまで思い出させてくれます。

“人は歳をとってようやく若い時に何が起きていたのかを知る” 、“我々は人生が過ぎてしまってから生き方を教わる”、若い時は気にも留めなかったこれらの箴言(しんげん)が脳裡を過ぎります。
答えは“微苦笑”、“後悔”、そして“諦念(ていねん)”です。

7月25日(1894、明治27年)、日清戦争が始まった日です。この50年前、江戸幕府の鎖国体制が揺らぎ始めた時期です。50年後、太平洋戦争の末期です。真に、激動の時代だったことが分かります。

今週の花材は、執務室、秘書室ともに木蔭の下での穏やかな涼やかさを想起させてくれます。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■バラ〔ブルーミルフィーユ〕   バラ科/落葉低木/花型・
花色など多岐にわたり約2万種超もある。世界的にも古くか
ら親しまれて人気の花。「ブルーミルフィーユ」は淡紫色で花
弁が多い品種。
■アンスリュウム〔ラピド〕   サトイモ科/常緑多年草/光
沢があり造花と見間違うような花。花弁のように見える部分
は苞で、中心の棒状が花序。「ラピド」は紫色。
■クルクマ〔シャローム〕   ショウガ科/球根植物/幾重
にも重なり花弁のように見える部分は苞で、その中に小さな
花が咲く。暑さに強く、夏でも花持ちが良い。「シャローム」は
ピンク色。
■アスター〔ステラホワイト〕   キク科/一年草/花色や咲
き方など、バラエティーに富む。15cmにもなる大輪品種やポ
ンポン咲き等もある。「ステラ」シリーズは花径2〜3cm程の
小輪半八重咲タイプ。
■セダム   ベンケイソウ科/600種以上ある多肉植物。
肉厚の葉をもち、耐寒性耐暑性があり乾燥にも強い。切り花
で流通する花が咲く品種も、丈夫で長く楽しめる。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2301.jpg

【秘書室】
■グラジオラス〔グランプリ〕   アヤメ科/球根植物/《名前の由来》
葉の形に由来し、ラテン語で剣を意味する“gladius”から/1000を超
える園芸品種があり、花色がとても豊富。草丈は1m程で、漏斗状の花
が花茎いっぱいに次々と開花する。
■OHユリ〔シベリア〕   ユリ科/球根植物/大輪咲で優雅な花姿と
芳香が特徴。ユリの中で一番知名度の高い「カサブランカ」も同種。「シ
ベリア」は白色。
■鉄砲ユリ   ユリ科/球根植物/《名前の由来》花の形が筒状で横
向きに咲き、鉄砲の形に似ることから/沖縄では自生種が群生する。同
じユリでも花の付き方や咲き方が異なり、OHユリとは違った雰囲気。
■ドラセナ〔ソングオブインディア〕   リュウゼツラン科/日本で流通す
る観葉植物の代表種。「ソングオブインデイア」は黄斑が入る明るい葉
色。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2302.jpg

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