HOME > 理事長室からの花だより

理事長室からの花だより

新着 30 件

一覧はこちらから

理事長室からの花だより

2013.08.09

vol.232  − 顧 (かえりみる) −

福島も梅雨明けです。蝉(セミ)が、刹那(せつな)の一生、騒々しく鳴いています。
しかし、天気はすっきりしません。果物栽培では大切なこの時季、甘味が出ないのではと心配しています。

神戸への出張、蝉時雨(せみしぐれ)に迎えられました。
新幹線が横断している川には鮎釣りでしょうか、釣り人の姿が点描のようです。風が平野を吹き渡っています。蓮の花もみられ、太平洋ベルト地帯、夏の真っ只中です。

海外では特にそうですが、旅先での朝、まどろみの中、不安と期待感が交叉します。

神戸の街をみていると、大震災の爪跡はみられません。翻(ひるがえ)って、ここ福島では目に見えない敵との斗い、却って不安な日々です。
「五十鈴川の鴨」(竹西寛子)の主人公(岸部悠二)のような静謐さを持って生きていきたいと思っていますが、難しいものです。

過去を振り返るのは老人の証拠、と言われてしまいます。
只、未来を向くと同じ位、過去に想いを馳せることも大切ではないかと思うようになりました。何故なら、私達は過去を向き、未来に背を向けて一歩一歩前に進んでいるのですから…。
原発事故で避難を余儀なくされている人々の怒りや悲しみは、未来を閉ざされたことよりも過去を断ち切られたことが大きいのでは…(vol.198  http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=234)。
未来は過去の上に重なっていくのですから。

次の仕事に向かう早朝の新幹線、車内は空(す)いています。外の風景に目を遣りながら、選択しなかったもう一つの人生を忘れられないでいる自分をみています。それは、戻りたくても戻れない場所です。
疲弊していたり投げ出したくなる時、心の裡なる声が、もう一つの人生の甘美さを耳元で囁きます。

仕事を終えての帰りの鉄路、車窓を打つ雨に想いは昔に帰ります。

         雨つよく降る夜の汽車の
         たえまなく雫(しずく)流るる
         窓硝子(まどがらす)かな
                        石川啄木

人々が、今尚、彼の歌に惹かれるのは、誰もが若い時に一度は感じたことのある想いを表現しているからではないでしょうか。

雨降る外の灯(あかり)をみていると、

         灯もなければ、ゐろりの火かげに寝所をまうけて臥す…

松尾芭蕉は「奧の細道」の中で、福島は、現在の飯坂温泉での宿の情景をこのように記しています。
闇の深い昔、漂泊の旅人にとっての灯の重みを感じます。

どうしても足を運びたいと願っていた「川合玉堂」展、間に合いました。
日本の四季の風土を描いた画業の数々、今は失われてしまった何か、昔は確かにあった何かを今に伝えています。そこには、懐かしいだけでない何かがあります。
   (vol.29 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=46
   (vol.31 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=51
   (vol.169 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=203

8月8日(1443)、世阿弥が80歳の生涯を終えています。
彼の確立した能とその作品は、今尚、多くの人々を魅了し続けています。その偉大さは、シェークスピアの作品の息の長さ(16−17世紀)と比べると、より明らかになります。
奇しくも、雪舟もこの日(1506)亡くなったとされています。

今週の花材は、色彩と花器のせいか、執務室は海岸、秘書室は高原の木立を連想させます。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



※来週の「理事長室からの花だより」は花材手配の関係にて休載させていただきます。
8月23日(金)より連載再開いたします。

今週の花


【理事長室】
■カクレミノ   ウコギ科/常緑高木/《名前の
由来》葉の形が蓑(昔の雨具)に似ていることか
ら/深い切れ込みの入った葉が特徴で、成木に
なると切れ込みのない葉がでる。花期は梅雨〜
夏で黄緑色の小花が咲く。花後に緑色の実をつ
け冬に黒熟する。
■グロリオサ〔ルテア〕   ユリ科/球根植物/
《名前の由来》ラテン語で「栄光」や「見事な」を
表す“グラリオラス”から/花弁が反り返りヒガン
バナのような独特の花姿。半蔓性で支柱や他の
植物などに絡まって成長する。「ルテア」は黄色
品種。
■スプレー菊〔フロッギー〕   キク科/多年草
/茎が分岐し一本に数輪の花が咲くスプレー咲
の菊。「フロッギー」はピンポン菊を小さくしたよう
な緑色のボンボン咲タイプ。
■ケイトウ〔オレンジクィーン〕   ヒユ科/一年
草/《名前の由来》花序が鶏の鶏冠に似ている
ことから“鶏頭”/今回は花序が球状になるクル
メケイトウを使用。他にトサカケイトウやウモウケ
イトウ、ヒモケイトウなどある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2321.jpg

【秘書室】
■リンドウ〔パステルベル〕   リンドウ科/多年草/《名前の
由来》根が薬になり、竜の胆のように苦いことから“竜胆:りんど
う”/日本の秋を代表する花で、世界に約400種。「パステルベ
ル」はパステルカラーの水色に白が混ざった涼しげな色。
■トルコギキョウ   リンドウ科/多年草/花の大きさや咲き
方、色合いが多岐にわたり、品種がとても豊富。祝事仏事とわず
人気の高い夏の花。
 「ボヤージュグリーン」フリンジ咲のグリーンで大輪八重咲
 「エコーレブルー」鮮明な紫色の小輪一重咲
■ドウダンツツジ   ツツジ科/落葉低木/新緑・花期・紅葉と
一年を通して楽しめる樹木。4〜5月にスズランのような白い小さ
な花が咲く。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2322.jpg

▲TOPへ